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学力が上がり、仲間とつながっている中学校は、どのような実践をすれば実現するか

 兵庫県の都市部にある公立U中学校は校区に同和地区を持ち、荒れを繰り返していたが、敏腕校長が赴任してきて、学校を大胆に立て直しつつあった。
 私はそのU中学校を調査するため1年間にわたって頻繁に訪れ、つぶさに見ることができた。
 つぎのような教職員のセリフは今でも私の胸に焼きついている。
校長
「うち先生方には、ほんまに感謝しています。ケンカするときもあるけど、腹の底ではわかりあっている。学校を思う赤い血が流れていることがよくわかる。私はしあわせもんや」
中堅教師A
「何かで生徒に勝たないと、指導なんてできない。情熱で勝つ、愛情で勝つ、腕力で勝つ、ウデで勝つ、何でもいい、勝たなイカン」
中堅教師B
「勝負の分かれ目は『やめとけ』と注意したときに、やめるのか、無視するのか」
「どろどろしたところに手をつっこんでいかんとダメ。やっぱりどこまで関わっていけるかやね」
「そら、しんどいでっせ。そのかわり、ぐぐっと手ごたえあったときはたまらんね」
 中学校は小学校よりむずかしいというのが私の印象である。荒れを見せはじめたら、お手上げである。
 思春期を迎える中学生たちは「自我」をもちはじめ、大人たちを批判的に見るようになってくる。心は不安定になりやすく、地道に勉強に取り組むことや、毎日コツコツ努力を続けることに、疑問を抱きがちになる。
 中学校の新入生たちに導入されるのは「中学校の規律」である。「授業規律」や「生活規律」という言葉がU中学校では日常的に使われる。
 小学校では家庭的なあたたかな関係のなかで子どもは生活することができるが、実社会がより近くなる中学校では、それだけでは足りない。
 U中学校のある教師は「家族的なつながりをどっかで切るのが中学校だと思う」と語ってくれたが、中学校では「きびしさ」や「ドライさ」といった社会の論理を生徒たちに経験させることが必要になってくるのである。
 U中学校では、手間ひまをかけて生徒との信頼関係を築くことで「指導」が通る状況をつくっている。
 生徒との信頼関係を築くことが今も昔もかわらぬ生徒指導の鉄則だと思われる。
 生徒たちがよく職員室に来る。質問や相談に来るたけでなく、ただしゃべりに来たり、休み時間に来たりということも多い。
「同和地区の子を真ん中にすえた学級づくり」の伝統を持ち、教師と生徒との関係はかなり親密なものになっている。
 U中学校では徹底した基礎学力保障の仕組みが整えられている。具体的には、
(1)「家庭学習の手引き」で、家庭と学校が協働して家庭学習の取り組みを進める。
(2)「習得学習ノート」を活用し「授業に結びついた家庭学習」を定着させることによって、自学自習の育成を図る。
(3)「学習を振り返って」により、学習に対する意欲・関心を引き出す自己評価とアドバイスを全教科で実施する。
(4)学力診断テストと生活実態アンケートから生徒一人ひとりの課題を把握し、指導方法の効果測定と工夫改善へつなげる。
(5)中学校区における小中連携から、指導方法の改善と、学びの継続性を図る取り組みを推進する。
(6)国数英で少人数授業、放課後の補充学習、個に応じた指導等
 U中学校の学力向上の取り組みは、きわめて体系的・組織的に展開されており、とりわけ、家庭訪問・補充学習・その背後にある個別学習を軸とする。
 低学力層の底上げ策は徹底し、成功している。
 こうした成果を生み出す秘訣は、教師集団の結束力・チームワークの高さにあると思われる。
生徒指導担当教師
「伝統的に組織で動いています。『すまん。来てくれ』と言ったら10人くらいどーんと動きます」
「個人の教師の力量で解決するんじゃなくて『私の足らん部分はあなたが補うてくれ』と」
「教師集団が個性を生かしながらやっていこうとするシステムが学校の中にありますね」
「組織として対応する。それを忘れたらあかんと思います」
校長
「先生方も個性があり、関心も力量も違ってます」
「今までの中学校には、スーパーマン的な教師がいたり、毎年同じ取り組みの繰り返しといった消極的な学校運営になっていたと思います」
「今求められているのは、新しいことにチャレンジしながら、教育課題に総合的にアプローチするような学校システムをつくることやと思います」
「すべての生徒を意識した方針か、教師集団として取り組める方針か、恒常的に取り組めるシステムをつくっているか、を常に点検しながら、新しいビジョンが求められているんです」
「生徒や教師や地域とともに新しい学校をつくっていこうという意欲が、子どもや教師をエンパワーすると思うんです」
 教師たちは忙しく立ち働いているが、多くのやりがいを感じ、達成感を得ることができているようである。
 そのようなことは、中学生たちとの日々の関わりのなかから出てきているに違いない。
 U中学校では「集団づくり」「仲間づくり」が徹底的に大切にされている。
 学級の中に「居場所」があってこそ生徒の目は輝くのであり、仲間との切磋琢磨のなかでこそ、学力や社会性が大きく伸びていくからである。
 U中学校には、ありのままの姿を受け入れてくれる仲間・友だちがいる。
 そのような「きずな」は、教師たちの信念とチームワークが創り出す「仲間とつながる」ことを徹底的に大事にするU中学校の空間が、子どもたちにそのような気持ちを起こさせるのである。
(志水宏吉:1959年兵庫県生まれ、大阪大学人間科学研究科教授。専門は教育社会学・学校臨床学)

 

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