問題行動を起こす子どもを回復させるためにはどうすればよいか、そのプロセスとは
問題行動や非行、不登校などを起こす子どもたちを回復させるためのプロセスは、次のように考えられる。ある子どもが金髪やピアスしたケースを例に取り上げてみる。
1 子どもの本人の存在を認める
子どもが金髪やピアスにしても、本人を否定も許可もせず、受け入れた。
本人は、学校がどう出るか、勝負しながら見ていた。これまでとは違う教師たちの対応に、少しずつ努力して馴染もうとし始めた。
だが、こういった曖昧さを許容する指導は、学校側にとってはリスクの高い難しい指導である。
他の子は認めないのに彼だけ認めるというふうに見られると収拾がつかなくなる恐れがある。そのためのフォローが重要だ。
他のこどもたちから出てくる不満や意見を個別に聞きながら、その都度、「お前の言うこともよくわかるよ」「様子を見ているんだ」と説明する。
そのうち、周囲の子どもたちも、試験観察中ということや、先生たちの苦慮している姿に、大変なんだな、まぁ、あいつは仕方ないかと受け入れ、大きな目で見守る方向に動いてくれた。
その後、本人は、金髪の色がだんだんと落ち着きピアスも減っていった。最後は真っ黒い髪で卒業していった。
このケースの場合、良いか悪いかという対応をしていれば、失敗していたであろう。中間の柔軟な対応ができるかどうかがカギになる。
そして、もう一つ忘れてならないのは、非行のケースの立ち直りには、時間がかかるということだ。
一進一退の局面を丁寧に乗り越えていくことが成否を左右する。じりじりと焦らないで見守るかが問われる。
こういった指導は、教師側の足並みがそろわないとできない。日頃の意思統一と、何かあるとすぐに教師が集まって対応するというチームでの対応、支える体制があってこそできる指導である。
2 安心できる居場所の確保
子どもたちが落ち着くために必要不可欠なものは、安心できる居場所である。
家庭と学校に安心できる居場所があれば、たいてい、それだけで落ち着いていく。
居場所をどう作っていくかということがポイントになる。
3 一対一の関係を作る
一対一の関係をつくるためには、その子のいる世界をそのまま知るということである。
さまざまな教師が日々、子どもによく声をかけ、勉強や友だち関係、家での様子など、話をする。
相談室で私と話すのは、主に雑談だった。バイクが好きだということがわかってきた。 寂しさや不安がバイクを見ていると忘れられるのだ。
不思議なもので、一対一の関係が安定してくると、それが他の子どもや教師、親ともつながり始める。
他愛ないことを話せる友だちができ、教室がだんだんと居場所になっていき、クラスでの活動も広がっていく。
安心が芽生え、対人不信から信頼関係ができていく大事なプロセスである。
4 トラブルを成長のきっかけに
居場所ができ、友だちとの関係ができると、本音と本音のぶつかり合いも出てくる。
キレたときこそ、学びのチャンスである。そのときは、いったんクールダウンするために切り離し、双方の思いを聞く。
聞き手が丁寧に思いを言葉にして整理していく。いったん自分自身の思いを聞いてもらうと、子どもは相手の思いを聞き入れる余裕ができる。
怒っていることがらを客観的に見られるようになり、相手の意図を知る中で、少しずつ、自分が自分の思いにとらわれすぎていたこと、相手は自分のことを思って叱ってくれたのだといったように、気づきが芽生える。
さらに、それを伝え合う中で、受け入る、受け入れられるという経験を積んでいく。
それが、自分のキャパシティを広げ、生きやすくさせていく。
5 やればできるという達成感をもつ
居場所がある中で、がんばったら「俺だって、やればできるんだ」という達成感が湧いてくる。
さらに、トラブっても、話し合い、解決できることの経験も大きな自信になっていく。
これが、自己否定から自己肯定へと切りかわっていく大事なステップである。
周囲とつながり、自分ともつながると、子どもは自分の足で立って歩こうとし始める。
自分とは何かと模索を始め、自分の将来像を夢見、それに向ってできる課題を模索し始める。
思春期以降の子どもたちの課題は自立である。
居場所と存在価値を身につける中で、自分らしく歩き始める。
そのプロセスに身近な大人が寄り添えるか、私たちの対応こそが、回復を支える鍵なのである。
(魚住絹代:1964年生まれ、大阪府教育委員会スクールソーシャルワーカー。1982年法務教官となり、以後、福岡、東京、京都の少年院に12年間勤務。非行少女の立ち直りに携わる。2000年に退官後は京都医療少年院で音楽療法の講師となるかたわら、2002年から、大阪府の公立小・中学校に、スクールサポーター、家庭教育サポーターとして勤務。子ども、家庭、教師の相談支援をしている)
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