授業で、95%以上の子どもたちに支持してもらうには、どのようにすればよいか
予備校のマドンナ講師、荻野文子さんの人気の秘密は、入念な準備にある。
90分の授業に3倍の時間をかけて準備する。
見せ方にも気を使い、姿見で通しげいこもする。
「連続ドラマの脚本家、演出家、そして役者。すべてを兼ねているようなものです」と語る。
少し鼻にかかった甘い声で、古文の受験勉強のツボを押さえていく。
まっすぐな視線、整理された板書、明快な説明。
「マドンナ」の愛称で親しまれる荻野さんの映像授業は、モニター画面を見つめる受講生の視線を引きつけて離さない。
代々木ゼミナールなどを経て東進ハイスクールで衛星放送授業、講師育成などに携わった。
「マドンナ古文」シリーズ、「ヘタな人生論より徒然草」など著書が多数ある。
今は授業のほとんどが衛星授業だ。スタジオでカメラに向かって授業し、それを全国の提携塾や予備校などで1万人を超える生徒が画面を通じて聞いている。
大きなホールで千人を超える生徒を相手に授業をしたことがある。あらゆるレベルの生徒がやってくる。
高校3年生を中心に、浪人生、高2、高1、なんと気の早い中学生も。
そんな状況の中、終了後に行われるアンケートで「支持率95%を取れ」という至上命令が課せられる。
どうすれば、そんな大人数を相手に95%という支持率を取れるか。
高い支持率の獲得をめざして、話をわかりやすくするために、生徒を次の四つのタイプに分ける。
「秀才君」:集中力、忍耐力があって思考力もそこそこある。
「ロボット君」:一生懸命暗記する。努力で、まずまずの成績を維持している。
「元気君」:好奇心旺盛。
「埴輪(はにわ)君」:何事にも無関心。
これは、授業態度の印象を誇張したネーミングで、人格を指すものではない。その点は強調しておきたい。
さて、この4タイプを同時に納得させるには、どうするか。
結論的には、一つのテーマについて4通りの説明を重ねる必要がある。
例えば、和歌にある本歌取りという修辞法。
教科書では「有名な古歌の一部分を読み込むことで、その和歌を取り込んだ新しい歌境を表現する方法」と説明されているが、「新しい歌の境地」という意味が生徒にはよくわからない。
私は、まず元気君ならどんな疑問を抱くかを考える。
「それ盗作と違うん。今なら著作権法違反。なんで褒められるん」と、元気君になったつもりで質問を投げかける。
すると、元気君の耳がピッと立つ。ロボット君も「何を言うんだろう」
埴輪君も「盗作? ふうん」と耳が動く。
そこで和歌から離れて現代の歌の例を持ち出す。
山口百恵の歌「プレイバックPart2」。
フレーズを口ずさむと、五感に反応することが多い埴輪(はにわ)君が授業に参加してくれる。
この歌の歌詞には、カーラジオから沢田研二のヒット曲「勝手にしやがれ」が流れる場面が盛り込まれている。
これは本歌取りだ。わずかな文字を引いただけで山口百恵の歌に沢田研二の歌が二重写しになっている。
男性のやせ我慢ではなく、女性のプライドを歌っているので、盗作ではなく、うまい表現と褒められる。
こんな説明をすると、元気君は大喜び。
「古文も一緒」とパターン化すると、ロボット君も安心し、もっと知的な解説を加えると、秀才君も満足する。
学校で元気君を育ててもらえると助かる。
授業をちょっと改革して、素朴な疑問に答える工夫をしてはどうだろう。
「盗作と違うん」みたいな質問をどれだけ予測できるかが勝負。
一つ一つの単元ごとに、みんなを抱き込んで興味づけできるものはないかと、1年間、その目線だけで教材を見てはどうか。ほかの科目の教師と話すのも参考になる。
私は授業の準備をするときに、
どうすればみんなが納得するかを考える。
そのためには教師自身が「元気教師」でないといけない。
子どもに好奇心を持っていないと、発想は生まれない。
家で疲れてテレビを見ていても、何か使えるものはないかと考え、絶えずアンテナを張り巡らせている。
授業を受けようという気持ちで学校に来ていない子どもには、素朴な疑問を大切にして、興味を引きつけることだ。
授業のとき、言葉のテンポやリズム感、立ち居振る舞いのコツは、鏡の前で授業をして、自分の動きをチェックすること。
「変な動きをしている」と恥ずかしいが、自分の授業を直視することは大切だ。
役者が舞台に立つのと同じだ。立ち位置や板書の場所なども全部シナリオと思っている。
(荻野文子:1957年兵庫県生まれ、元東進ハイスクール古文科講師、学研プライムゼミ古文科講師。大学受験単科塾TOY・Ans・navio塾長。講師アカデミー共同主宰)
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