子どもたちに毎日「家庭連絡」「見たこと」「はてな?と思ったこと」をノートに書かせる
1 おたよりノート(家庭連絡ノート)
私は、学級通信は、よほどのことがない限り、出さない。そのかわり「おたよりノート」を全員にもたせ、毎日、連絡すべきことをくわしく書かせる。
黒板に少しずつ書いては「おたよりノート」に写させる。
学級通信にのせて知らせたいことを、全部子どもに書かせる。これは書く学習である。
書いたものを読ませる。音読の練習である。
保護者も、子どもの「おたよりノート」を毎日見る。学校の様子を知り、あす準備するものを知る。
つまり「おたよりノート」を通して、子どもと親がコミュニケーションできる。
子どもも、わたしが検印をおし、親が見るので、読めるように書こうと努力する。詳しく書いて親に知らせようと工夫する。
「おたよりノート」を書くことを通して、大切な指導ができるのである。
それを学級通信として印刷したものを渡したのでは教育の機会をなくすことになる。あまりにももったいないのではないか、というのが、わたしの考えである。
2 「見たこと」帳
小学校1年生には「研究文」は無理である。自分の目で、耳で確かめたことを書かせたい。
テレビでの聞きかじりを書かせたのでは弱い。何としても自分で苦労して入手したことや、自分で追究したことを文章にさせてみたい。
こうして、考えた末に「見たこと」を書きなさい、が誕生した。1年生の子どもに、
「自分で見たことなら何でもよいから書きなさい」
「一行でもいいよ。そのかわり、自分の目で見ていないものはダメだよ」
と話し、できるだけ毎日書くようにはげました。
1年生から始めると「書くものだ」という意識がはたらくのか、毎日書く。こちらが驚くほど書いて書きまくる。
はじめは「見たこと」を、事実だけを書いていた。
書き慣れてきたころから、それについて「思ったこと」を付け加えるように指導した。「○○を見て、××と思った」というように。
さらに「予想」を入れることや「調べたこと」を書いていくように、段階に応じて指導していった。
「見たこと」帳を通して、追究する子どもが育った。
3 はてな帳
一年生に入学したばかりの子どもたちは、無意識のうちに、いろんなものに「はてな?」と思っている。
これをほうっておくと、意識的に「はてな?」と思うことは極めて少なくなる。
そこで、できるだけ早い時期に「はてな?」精神を引き出し、問題を発見する技能を育てていくことが大切になる。
入学して早い時期、わたしの場合は入学式の翌日、
「この教室で『はてな?』と思ったり、おたずねしてみたいと思うことはありませんか」
と、問いかけ、列ごとに全員、言わせるようにしている。
どんなことを言ってもよい雰囲気をつくりながら言わせる。
毎日、口頭で「はてな?」を言わせる。言いぱっなし、聞きぱっなしである。
だからこそ、子どもたちは自由に言うのである。毎日言わせているうちに、
「先生『はてな?』を書いてきていいですか?」と言うようになる。
私が「どうして?」と問うと、
「毎日『はてな?』を言わせるでしょ。だから、家でみつけて書いてくれば、いちいちみつけなくていいから、めんどうくさくないよ」
「おたよりノート」を書いているので「はてな?」を家で書いてよいかと言うのである。
私は、こう言い出すのを、今やおそしと待っていたのである。このために「はてな?」帳を40人分つくって待っていたのである。
しかし、そんなことはおくびにも出さないで、「まだ、君たちには無理だよ。自分では書けないよ」
「書けるよー。書ける。」と、合唱のように言う。「そんなに言うなら、書かせてやるか!」と言うと、大歓声である。こういう演出をするのである。
子どもたちが書きたいと言い出すのは、たいてい四月末である。
「さあ、がんばって、毎日『はてな?』と思ったことを、一行でよいから書くのだよ」
「朝、学校にきたら、書いたところ開いて、先生の机の上に置きなさい。いいものにはマルもあげるよ」
こうして「はてな?」を書くことにより、記録も残り、成長の様子もこれでよくわかるようになる。ちょうど5月に入るころであった。
6月ごろになると「こう思っていたら、実際はこうだった」という、「予想や答え」を入れるように指導する。
そうすると、文がふくらみ、内容が豊かになって、おもしろくなる。
成長にあわせ「おもしろい、はてな?」を見つけなさいと働きかける。「ものごとをおもしろく見る」というユーモアのセンスをみがくことになる。
「はてな?」を書くことで、何を見ても問題を発見できるようになり、おもしろく見ることができるようになるのです。
教育というのは、子どもの見る目を広げたり、深くしたりすることでしょう。そのようなことを、保護者にも理解を求めていく。
(有田和正:1935-2014年、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)
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