生徒をやる気にさせるには1対1で向き合い、答えを教えず自分で見つけさせること
中学1年生の英語の授業。
いきなり英語で話し始めた。生徒を心から楽しませる。いわば準備運動である。15分後教科書を開かせた。
英語を教える相手は中学生。田尻悟郎はまず「楽しませる」ことを大切にする。
そのためには、あらゆる手を使う。ゲームやクイズ、歌や映画、そしてときには屋外での特別授業。
巧みな話術と面白おかしい小道具、そして大げさなリアクションで生徒たちを盛り上げる。その姿は、まるで大道芸人のよう。
漫才が好きだ。鏡の前で表情を作ったり声を出す練習する。
しかし目的は、生徒を遊ばせることではない。
授業を楽しませ、夢中にさせることで、慣れない英語を生徒たちの身近なものにしていく。
英語を勉強することは、苦い良薬みたいなもの。そこに楽しさという糖衣をまぶすことが先生の重要な役割だ。
田尻の譲れないこだわりは、生徒に答えを自分で見つけさせること。
正解を教えない。生徒が答えを見つけるまで待ち続ける。
正解をいわないまま授業を打ち切ることも少なくない。
答えがわからない、教えて欲しいというストレス是非ためて欲しい。
教えなければ、生徒は気になって自分で答えを探し始める。
生徒をやる気にさせる方法は一つしかない。1対1で向き合うこと。
子どもたちと一人ずつ対話する場面を意識的に作らなければ、彼らからの信頼を得ることはできない。
しかし、一クラスの生徒はおよそ40人。どうやってその時間をねん出するか。
解決策として考え出したのは、1対1で行う口頭の小テスト。
単語の発音や会話の練習、あるいは短いスピーチなど、生徒と1対1で向かい合ってテストをする。
そのなかで会話を重ね、その子のやる気を引き出していく。
小テストをクリアして実力がついた生徒を先生役に指名して、ほかの生徒の1対1の小テストを全て任せる。 生徒同士での教え合いが始まるのだ。
複数の先生を教室につくることで、教師は、それまで面倒を見られなかった生徒と1対1で向き合うことができる。授業に積極的でない生徒たちに直接指導する。直接、言葉を交わし合うことで生徒の心の扉を叩く。
1対1で会話をしないことには彼らは信用してくれない。
信じて、待ち続けるのが田尻悟郎流の人間育成法である。
英語の知識を教えることだけはない。教える生徒は思春期の真っただ中に立つ。子どもから大人へと成長していく。接するなかで授業を通して大人になるための練習を課す。
しかし、頭ごなしに生徒に「指導」することはしない。大切なのは本人が気づくかどうかだと考えるからだ。
それまでは、ただ待ち続け、生徒を信じ続ける。友だちとトラブルを起こしたときや本人が気落ちしたときこそが、機が熟したとき。そのとき初めて動き出す。
英語できるよりももっともっと大切なことは、自分一人が良ければいいんじゃない。生徒同士の教えあい。相手の気持ちをくみとりながら接すること。
人の痛みを知る生徒になってほしい。悔しさ、みじめさ。それを味わっているから人の気持ちがわかる人間に。
田尻の信念は「子どもたちの心を開き、やる気をたきつけること。答えは自分で見つけさせる。1対1で向き合う」こと。
楽しめば、勉強が勉強でなくなる。
教師が楽しそうに、夢中で一生懸命でいる姿は生徒に伝染する。
田尻の若い頃はスパルタ教師だった。授業がうまくいかず、部活動の指導に入れ込んだ。
スパルタ指導で野球部が優勝して結果を残すも、生徒たちに「先生への恨みから、勝とうとした」と言われ、田尻はショックを受けて、変わった。
楽しいということが、ふざけて楽しむんじゃなくて、学習することが楽しいのなら良いんじゃないかと思った。
ぴりっとした空気を持ちつつ生徒たちを盛り上げる手腕はすごい。
厳しいだけではなく、優しく甘いだけではない。いかに学ぶ心構えを作るか、作ったそれを維持し続けるか。そのことをとても意識している。
教師の目線が生徒と同じか下だと生徒たちが自分を出せる。
教師が一方的に生徒を説き伏せても意味がない。本人が気がつき始めた、機が熟したタイミングに一声かける。
1対1の小テストに合格して先生役になった生徒が増えて来ると、田尻は教室を歩き回わる。勉強している生徒、生徒同士で小テストをしている生徒たちのようすをじっと観察している。
教師はエンターティナーと思っているとの言葉のとおり、外に表れている田尻の姿と、内面、内心の計算、思考がかなり高速に動いていると思う。鋭い視線が、それを物語っている。
(田尻悟郎:1958年生まれ、神戸と島根県で公立中学校7校に勤務を経て関西大学教授。パーマー賞を受賞、『Newsweek』誌日本版の「世界のカリスマ教師たち」の1人に選出される)
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