子どもの荒れの原因は学力の欠如にある、つまずきを克服するには、どうすればよいか
小河 勝氏は、長年公立中学校の現場で、つまずき克服の実践を続けてきた。
つまずきの原因は、算数と国語にあるとし、算数のつまずきを発見するための「小河式算数チェックテスト」を考案。国語では独特の転写法による実践を続け、多くの子どもを立ち直らせた。
こうしたつまずきを持つ中学生でも、家庭学習だけで、公立のトップ校に合格できる学力をつけさせる独自の問題集シリーズ「未来を切り開く学力シリーズ」のプロジェクトの中心となり、自らも「基礎篇」を執筆した。
小河 勝氏は、1970年代に新任新教師として過ごした公立中学校での日々を克明に覚えている。
校内に散乱するガラスの破片、たばこの吸い殻、便器にねじ込まれた空き缶…。
新任教師時代は、子どもの勉強ができないことと荒れることが、自分の中で深く結びついてはいなかった。
何が起こっているのかわからない状況の中で、
「なんでこの子たちは、こんなに荒れるのか」
という疑問をいだき、いろいろと調べていく中で、最終的に学力の問題に行き着いたのです。
勉強が「わかる」「わからない」というのは、子どもたちにとって、精神の健全さの軸をなす重要なファクターなんだということが「生活実態調査」からはっきり見えたのです。
わからないまま学校で勉強するということがどれほど苦痛であるか、自分たちの生活全体がいかにグレーになっていくか、そして、暗黒になっていくか。
「自分にはもう未来がない」というふうに彼らは思わざるをえないということが、はっきりと調査でわかったのです。
その後、算数の学習のつまずきの状況も調べました。大変な結果でした。
かなり初期の段階からつまずいて、苦しみ、のたうちまわりながら、学校で授業をずっと聞いてきたということがわかりました。
「種子植物」なんて読めない。「たねこ」と読んでしまう。そういう状況が現実にあるのです。
学力問題は、小河 勝氏は非常に重要な人権問題だと思った。
基本的な可能性を剥奪された人生を生きていかざるをえないことになるからです。
きっかけは米国の社会心理学者、エーリヒ・フロムの著書で読んだ次のような言葉だった。
「無力感の中で、永遠に人間は生き続けることはできない」
「彼らはやがて破壊を求めだす」
と書いています。
私はこの本に出会ったときに、本当に「あの中学生たちが荒れている根拠はこれだったんだ!」と心に響きました。
小河氏は「そうなんや、彼らは無力感の渦の中でおぼれ続けてたんやと、すごく鮮明に自分の中で結びついた」と振り返る。
すぐさま自前のアンケートを行い、授業の理解度と未来への意欲などの関係を調べた。両者は見事に比例した。
後に赴任した中学校で、小河氏は同じ学年を受け持つ教員たちと協力し、計算や文章トレーニングを毎日繰り返す取り組みに挑む。
すると、学年が上がっていくごとに子どもたちが落ち着いていった。どんな荒れた子でも最後はわれわれの懐に入ってきた。
荒れの原因は学力の欠如にある。多くの子どもが小学校時の積み残しを抱えたまま中学校のカリキュラムを受けている。
その打開策として、小中学校が一体でつまずいた子どもに基礎演算や小数、分数などの基本的な部分の力をつけてやることが重要である。
授業時間の一部や授業前の時間の確保や、つまずき調査などのデータの活用など、相互に意見交換をして取り組むこと。
勉強が分からない子どもに分からせてやるのは教師の務め。分からない子どもが抱える無力感を取り除いてやれば、学校の荒れも消え、落ち着く。
中学で新入生に3ケタの掛け算をさせると半分くらいは間違えてしまう。これが基礎学力崩壊の実態。
このような状態で頑張らせるのはサイドブレーキをかけたまま「走れ」と要求しているようなもの。大事なのは、まず基礎を徹底してやらせることです。
「5けた」÷「2けた」のようなわり算の中には、たし算、ひき算、かけ算の計算要素が約80弱もあるのです。
一定の速さでトントンと80弱の階段を効率よくたどっていける力がなければ、わり算はわかりにくい。
「ゆっくりでいいんだ、できたらいいんだ」というようなことを気楽に言われる方がいますが、その方々は、わからない子を教えたことがないということを自白しているようなものです。
わからない子たちは、遅いことによってものすごくやりにくく、しんどいのです。サイドブレーキかけながら、アクセルを踏んでいるようなものです。
つまり、基礎計算力をしっかりつくることが最も重要で、それによってしか本質的な改善は図れないということです。
中学校で理科を教えてきましたが、理科では、割合や比例を使います。ところがその定着状況は散々です。
こんな状態では、電流も密度も教えられません。
ではどうするかということですが、教師一人ひとりの努力の範囲を超えていますから、学校ぐるみで特別な時間編成で、取り組んでいくしかないのです。
中学校で、組織的に取り組むというのは、非常に困難でした。
教科担当制を超えて、みんなでスクラムを組まなければいけないのですから。
そのためにも、学力実態調査によって、データを集めて、よく分析して、どうすべきかということを協議して、各地で取り組んでいただけたらと思います。
(小河 勝:1944年大阪市生まれ、元大阪市立中学校教師・大阪府教育委員会委員。中学生向けの国語、算数の教材「小河式プリント」書き込み式の教材が基礎学力の養成に役立つとして、全国の中学校や学習塾で利用されている。中学生の自主学習を手助けする「小河学習館」の館長)
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