担任を持ったとき、子どもを育てる1年間の戦略や戦術をどのように持てばよいでしょうか
担任として自分の学級を持つと、4月の段階で自分の学級の子どもたちが学校生活の中で、どのように成長し、1年後にどういう姿になっていてほしいかを考えます。
子どもの成長を戦略的に考えます。
土作先生は、子どもが「成長する」ということは、具体的には
「何事も自分で考えて、自分で行動していく力を身につける」
ことができるようになることであると考えています。
しかし、はじめから主体的に行動できる子どもはそう多くありません。
日々の学校生活の中で、徐々に培っていくことになります。
そのためには、最初から子どもに物事の判断や行動のすべてを投げるのではなく、まずは教師が子どもたちの行動を引っ張る、指示するなど、ある程度子どもの行動への介入が求められます。
教師は年間を通して、だんだんとその介入の比率を減らし、子どもたちが物事に対して、自発的に動く比率が高まることが子どもの成長の証になります。
そのための「戦略」と「戦術」とは、
まずは1年間(4月~3月)で、どのような子どもになってほしいかいうイメージを持ちます。
4月は新しい学級の子どもたちに指導しますが、子どもたちはまだ共通の規律や強制の中におかれていない、いわば寄り集まっただけの状態です。
ですから、子どもの言動や姿勢に関してかなりの部分を教師がテコ入れし、あれこれ言うことが多くなります。
この時期は子どもの主体性は低く、教師主導で学級が動いていきます。
教師がどんな工夫を凝らしても、いきなり自分で考えて行動できるように子どもを変えることは至難の業です。
かといって、1年という漠然とした時間を目標に、毎日の指導を行うのは容易ではありません。
日々の指導を考える上で、子どもの成長した姿を考える際、具体的・実際的な「戦術」に対して、より中長期的な段階のイメージや枠組みのことを「戦略」といいます。
「戦略」を遂行するために行うのが「戦術」です。
つまり、「戦略」に基づいたあらゆる「戦術」を通して、子どもたちを育てていくのです。国語の実践を通して、戦略の過程と具体的な戦術を見ていきます。
たとえば、
戦術1「漢字練習帳を使って子どもの自主性を育てる」
年度の最初に、その学年の漢字練習の教材が配られます。
漢字ドリルや漢字練習帳のようなものです。
漢字練習帳を使った宿題では、漢字練習帳の指示通りに漢字の練習を行なってくれば、本来やるべきことは達成されていると言えます。
しかし、教師に指示されたことのみを忠実にこなしているだけでは、子どもの主体性は低いままです。
子どもの自主性を育てる教材として漢字練習帳を用いる時に、最初は教師が余白の使い方を指導したり指示したりする必要があります。
徐々に子どもの主体性が高まってくると、漢字練習帳の余白に隙間がないほど自分で漢字の練習をしたり、漢字の意味を書いたりするなどの変化が見られます。
土作先生は子どもたちにこう伝えます。
「昨日をひとつだけ超えなさい。」
「昨日から1ミリだけ前進しなさい。 」
子どもに対し、最初から自力で漢字練習帳の余白を全部埋めることを求めるのは無理があります。
しかし毎日、漢字1つの意味や成り立ちを余白に書いてくるようにさせ、少しずつでも進めていけば、1学期終わる頃には余白をだいたい埋めてくるようになるのです。
土作学級ではゴールデンウィーク前後には、漢字練習帳の余白に意味を書いてくる子どもが出てきていました。
戦術2「自ら進んで辞書を使う子どもを育てる」
辞書を使う習慣を子どもたちにつけさせたい時には、自主的に学習を進めていくためにも、普段何気なく使っている言葉について、辞書を使って改めて意味を確認させます。
例:「『赤』は辞書にはどのような意味が書いてあると思いますか?」と子どもたちに尋ねます。
学級づくり改革セミナーでは土作先生が、参加した先生方一人ひとりを指名し、答えていただいてもらっていました。
先生方の回答は、「血の色」「共産主義」というものでした。子どもたちからはどんな答えが返ってくるでしょうか。
ちなみに辞書には以下のように書かれています。
あか【赤】[名]
1 三原色の一つで、新鮮な血のような色。また、その系統に属する緋(ひ)・紅・朱・茶・桃色などの総称。
2 《赤ペンで直すところから》校正・添削の文字や記号。赤字。「—を入れる」
3 《革命旗が赤色であるところから》共産主義・共産主義者の俗称。
4 (「あかの」の形で)全くの、明らかな、の意を表す。「—の他人」「—の嘘」
土作先生は言います、
「普段当たり前だと思って使っている言葉でも、実は辞書をひいてみれば、君たちが思っている以上に広くて深い意味があります」
「思わぬものを見つけたら、漢字練習帳の白い部分に書いて持ってきましょう」
最終的に漢字という分野で、子どもたちが自分たちで率先して学習を進めていくように育てるためには、子どもの学習へ向かう姿勢に対して、教師の介入の比率が高い最初の段階で何をする必要があるでしょうか。
授業の中で子どもが分からない言葉が出て来た時に、教師が子どもに「これはどういう意味?」と質問します。
例えば「プレゼンテーション」 という言葉が出てきたときに、この語の意味が分からない子どもに対して、
「『プレゼンテーション』を辞書で引きなさい。」
というところまで指示していては、子どもの自主性が育つとは言えません。
どんな教科であろうと、分からない言葉が出てきたら、子どもたちが自ら辞書を引くような状態こそが、学習へ向かう子どもの主体性が高い状態と言えます。
子どもが辞書を日常的に使う状態にするには、まず辞書そのものを子どもの身近に置く必要あり、そのためには、教師が「国語辞典使い方ゲーム」など、辞書を使ったゲームをたくさん持っておくことが必要です。
授業のネタは持たなくていいものではありません。自分の立てた戦略を実行に移す時に、子どもたちの変化に直接作用する大事な道具です。
小ネタは「戦術」であり「戦略」ではない。
小ネタをたくさん持っていることは重要です。小ネタは戦術にあたります。
しかし、戦術は戦略に基づいて利用されるものです。
そのネタをどうしてこのタイミング・この時期に使うのかということに対して、きちんと説得力のある根拠をもたせるためにも、
(1)子どもたちの現状はどのようなもので
(2)子どもたちには次にどんなステップに進んで欲しいのか
(3)そのためにはどんなネタ使った方がいいのか
ということをきちんと確認しておくことが大切です。
土作先生がミニネタをつくるさいのコツは「テレビを観ている時とかに、面白いと思ったことを、いかにして教育現場に持ち込むか」ということを考えているのだそうです。
子どもたちにとっては「面白い」から「わかる」。「わかる」から「できる」ということです。
(土作 彰:1965年大阪府生まれ、奈良県公立小学校教師。授業のネタを収集、何かが足りないと気づき、深澤久氏の学級を参観し衝撃を受け教師に必要な哲学を研究。
学級経営を成功させるには「教える」「繋げる」「育てる」によって、知的に楽しくビシッとしまる「学級づくりの3D理論」を提唱し実践している。日本教育ミニネタ研究会代表、学級づくり改革セミナー主催)
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