教師が子どもに魅力ある話し方をするには、どのようにすればよいか
教師の話し方の基本は、声は全員の子どもに聞こえるように、しかも、明瞭で明るいトーンで発せられなくてはならない。表情や手振り身振りの豊かさも重要である。とくに、笑顔が欠かせない。
こうした表現力は、意識して努力しないと高まらない。
ときどき、自分の話を録音して聞いてみたり、大きな鏡の前で手振り、身振りやいろいろな表情をつくったりして、それらが子どもたちにどのような印象を与えるか分析的に検討してみたい。
そうした努力なしに、魅力ある話し方はできないだろう。
教師の話術の基礎は、子どもとの対話や会話にある。暇さえあれば、子どもたちと雑談して、おしゃべりを楽しむことを勧めたい。
教師は多忙で、子どもたちと言葉をかわす余裕もなく、とかく命令的・指示的にふるまいがちである。たとえば「静にしなさい」「早くやりなさい」・・・・・。
この命令的・指示的な話し方が、教育現場に習慣化し、子どもに向かって命令や指示はできるが、話し合えない教師を増やしている。
教師の命令的な話し方は、子どもをいらだたせる。
子どもたちがクラスの友だちにたいしても、同じような口調で接するようになり、攻撃的な人間関係をいっそう強める結果になる。
そこで、すぐにできることは、指示的・命令的な口調から「勧誘(誘う)」話法に切り替えることである。
たとえば「早くやれ」ではなく「早くやりましょうね」という「誘う」いい方に切り替える。
こうすると、子どもと横並びの関係に立って、子どもたちの自発性にはたらきかける親しみのある表現にかわる。
子どもに注意するときは、楽しいエピソードにして伝えるようにする。
たとえば、教室のほうきが壊れていたとき、どのように注意すれば徹底するでしょうか。
「掃除用具をていねいに扱うこと。わかった?」と注意する。だが、こんな注意のしかたで徹底するわけはない。
楽しい話に仕立てて伝えるのである。
私が小学生のとき担任の先生がこんな話をしてくれた。
「先生が夜遅く教室の前の廊下を歩いていたら、教室のなかからだれかの泣き声が聞こえる」
「そっと戸を開けてのぞいてみたら、ほうきが泣いていたんだ」と、こわれたほうきを見せながら、
「見てくれ。このわたしのからだ。頭と胴体がばらばらだ。トホホホ」と泣き真似してから、
「ほうきだって痛がっているんだ。かわいがってやろうな」
わたしたちは大笑いしたが、二度と掃除用具を乱暴に扱うことはなかった。
こんなたわいもない話でも、子どもとは、おもしろがって聞くものなのである。
いまは、なにごとによらず、あくまでも善意を尽くして子どもをとらえることが望まれる。
たとえば、子どもが遅刻したとする。時間を守らない、規則を破る、だらしのない子ども、だととらえると、腹が立って叱りたくなる。
しかし「熱をおして遅れて学校に来たのではないか」「なにかわけがあって時間には、間にあわなかった。だが、がんばって登校してくれた」とみたらどうだろうか。
そうすれば、ちょうど長距離走で、一周遅れでゴールする子どもを拍手で迎えるように「よくがんばって学校に来てくれたね」と、ねぎらいの言葉をかけたくなる。
遅刻した子どもを「規則を破った子ども」とみるか「遅れてまで学校に来てくれた子ども」とみるかのちがいである。
やさしい態度で子どもに接するようにしたいものである。
たとえば、入院したとき、お医者さんが注射を打ちにやってきた。
「注射ですよ」と医者はつとめて明るい声で告げる。
そして注射をうつ前に「ごめんなさいね。痛いですよ」といいながら注射したのには驚いた。
注射は痛いにきまっているが、患者のためにしているのであって、医師が勝手に好きにやっているのではない。
だから、なにも「痛い注射をしてごめんなさいね」と謝ることはないのである。
にもかかわらず「ごめんなさいね」といいながら注射をした。
これが医療現場の患者にたいする接し方である。
人間にたいする共感的な、かぎりないやさしさの話法である。
ひるがえって教育現場ではどうだろうか。あまりにも権力的ではなかろうか。
たとえば「朝からいやな話で悪いが」と前置きして暗い話をするといった、やさしい気配りがあってもいいのではないだろうか。
教師の中には「子どもは教師のいうことを聞くのはあたりまえだ」と思い上がっている人はいないだろうか。
教師も、たまには、授業の終わりに「今日はみんな、いっしょうけんめい勉強してくれて、ありがとう」と、いってみたらどうだろうか。
教師の指導が上手に展開したのは、子どもたちが協力してくれたからだ。ありがたいことだ、こう思える教師になるということである。
教師の「ありがとう」は、子どもたちに、自分たちは人に感謝される存在なのだということを教え、自尊感情を育てることにも役立つのである。
(家本芳郎:1930-2006年、東京都生まれ。神奈川の小・中学校教師。退職後、研究、評論、著述、講演活動に入る。長年、全国生活指導研究協議会、日本生活指導研究所の活動に参加。全国教育文化研究所、日本群読教育の会を主宰した)
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