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あなたは教師として、子どもたちの言葉や思いの本質を聴き取る力がありますか

 金森俊朗氏は「手紙ノート」の実践をしていました。その実践を次に述べます。
 金森俊朗氏のクラスの一学期は次の言葉から始まります。
「学校に来るのは何のためや?」
「ハッピーになるため!」
 クラスの一日は「手紙ノート」で始まります。毎日三人の生徒が、クラスメートに宛てた手紙を読み上げます。聞いた生徒は感想を述べるのです。
「大切なのは、手紙ノートがなければ知らなかった友だちの姿を、どんなささいなことでも発見することです」
 と、手紙ノートを読む目的を金森先生は語ります。
 自分の気持ちを伝える時間や場所があり、受けとめてくれる友だちや先生が確かにいること。それが金森学級の子どもたちをどこかのびのびとさせている。
 何よりも、楽しい時間を共有し、面白かったなと言い合えることで、クラスの中に仲間意識が生まれる。
 それは「みんなでハッピー」の土台となる。
 これは教師がいくら教壇でいくら頑張っても教えられるものではない。
 多くの教師が金森俊朗氏の「手紙ノート」の実践を真似たが挫折したという。
 その原因は、言葉にならない身体で表された言葉、言葉が不足がちな子どもの表現、表現に込められた思いや科学の素地を読み解く教師側が、貧弱だったからである。
 教師を対象にした講演会で私は次のような話題をだした。
 学級で朝の「手紙ノート」(仲間に伝えたいこと)の時間で、ある子が、
「昨日、家族でお鮨屋さんにいき、お鮨をたくさん食べました。とてもおいしかったです」
 と報告がありました。
「さて、あなたの学級ならどんな応答が生まれますか」
 と参加者の教師に問うた。
 たぶん、
「どんな鮨を食べたのですか」「どんなお鮨が好きですか」「ほく、トロが好きや」
 などの話で盛り上がるだろうが、ほぼ一致した意見であった。
 子どもたちの応答を聞きながら
「あ~あ、またこんな話題か、つまらないな、と思ってしまう教師は手を挙げてください」
 と言うとほとんどの参加者が挙手した。
 この報告で大切なポイントが二つあることを金森氏は強調した。
 一つは、家族そろって鮨屋に行くことは珍しいことである。このことに関して、うんと想像力を働かせる。
「何かのお祝い、ボーナスの支給・・・・」 などが思い浮かぶ。
 二つ目は、「鮨の種類」だと簡単に盛り上がる。
 魚介類をすべて板書すると種類の多さにみんながおどろく。
「板書した海の幸の漢字を調べてくるぞ~、という人」と聞くと、子どもたちは必ず手が挙がる。
「レストランで魚にあたるものは?」と問うと「牛・豚・鶏」と少ない。海の幸の多さと季節による違いに気づく。さらに、
「旬といえば、海の幸以外にも、今しか採れないものとは?」
 と問うと「山菜です」と子どもたちは旬の食べ物を挙げていくだろう。
 参加者がこの応答に感心している。
 参加者の教師は「貧弱」「つまらない」報告だと決めつけていた自分の「貧弱さ」に改めて気づいていた。
(金森俊朗:1946-2020年、元小学校教師・北陸学院大学教授。「仲間とつながりハッピーになる」教育や人と自然に直に触れ合う命の授業を行った。NHKで日本賞グランプリ受賞) 

 

 

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