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授業や子どもの生活の一部をエピソードとして蓄積し、発信すれば教室を楽しくし、保護者の苦情も少ない

 野口晃男さんは小学校長のとき「学校だより」を書いた。
 子育てに奮闘する保護者と若い教師にメッセージを伝えるためだ。
 小学生を持つ保護者は苦労もあると思うが、子どもに最もメッセージを送りやすい時期でもある。
 「一緒に成長するつもりで、子育てを楽しんで」という思いで野口さんは書いた。
 親が子どもに「学校、楽しかった?」と、親が子どもと会話を切り出すときによくする質問だ。
 しかし、野口さんは、
 「具体性がなく、子どもにとっては難しい質問」と言う。
 「きょうは誰と遊んだの?」の方が数段分かりやすい。
 親も子どもの様子が想像できる。
 最も大事なことは「親がどんな話題に関心を示すかで、子どもは話題を選ぶようになる」こと。
 楽しいことを話すという行為は、その子に「プラス思考」という素晴らしい力を育てる。
 その反対で、親がマイナス面にだけ関心を寄せると、子どもは自分の受けた被害の部分だけを学校から持ち帰ることになる。
 子どもの、わがままとのつき合い方、あいさつや手伝いの大切さなど、家庭で実践できる子育てのヒントが随所に書かれていた。
 たとえば「校長室の窓から62号」には「子どもを悪くする3つの方法」が次のように書かれている。
 入学式で入学のお祝いを述べたあとで、保護者の皆様方に子どもを悪くする3つの方法を話しました。
 一つ目の方法は、子どもの前で近所の人にあいさつをしないという方法です。
 近所の人だけでなく、知っている人にもあいさつをしないようにするのです。
 そうすれば、子どもは間違いなく陰気で礼儀知らずの人間に近づいていきます。
 二つ目の方法は、家の中で手伝いをさせないという方法です。
 家のみんなが働いているのに、遊んでいても平気でいられるような子にするのです。
 そうすれば、子どもは学校でもそうしますから、そのうちに多くの友達からの信用を失い、最後はひとりぼっちになってしまいます。
 特に掃除をさせないのがこの場合の一般的な方法です。
 三つ目の方法。それは子どもの頭を悪くする方法です。
 それは、子どもの前で友達の悪口や、近所の人の悪口や先生の悪口を言うことです。
 この方法が効果的である理由は、とてもはっきりしています。
 お父さんやお母さんが悪く言っている人の話は、どんなに素晴らしい話でも、その子の心に響かないのです。
 いま、皆さんに、子どもを悪くする3つの方法を話しました。
 反対に、子どもを良くする方法はたくさんあります。
 これから一つ一つ実践し、子どもを良くする方法を工夫し、ご家庭の皆様とともに協力して育てていきたいと考えています。
 「一部分でも心に残る部分があればうれしい」と野口さん。
 「学校への批判にどうこたえるか」は、家庭や地域との連携を目指す、学校経営者の目がうかがえる。
 心配する声も寄せられた、雨の中の水泳教室や自転車教室。
 保護者や地域住民の不安を解消するため、実施の狙いや当日の子どもたちの様子など情報公開に努めた。
 36年の教員生活。子どもの純真さは変わらないが、親を取り巻く環境は大きく変わった。
 「車社会によって目的地には早く着くが、手をつないでの親と子の会話などの楽しみをなくした部分も」
 「むだに思えるような時間こそ大切にしてほしい」とアドバイスする。
 野口さんが大切にしている写真がある。
 退職を迎えた中野小の校長室で、子どもたちの笑顔に囲まれた一枚。
 校長室のドアは常に開いていたという。
 「校長だから偉いわけではない。門構えや地位、服装などの見た目で人を判断したり、物おじする人にはなってほしくない」と言う。
 「大切なのは心。一対一で付き合える人間性を養ってほしい」と願う。
 野口さんの教師時代の学校実践の特徴は、次のようである。
 野口さんは、小さいころから叱られることがきらいだった。
 常に叱られない方法、自分が楽しむための方法を考えていた。
 野口さんは教師になっても「その場の中で、できるだけ楽しい方向へ」という発想で実践を行ってきた。
 そのような発想の土台の1つが読書。
 野口さん自身、小学校時代から多くのジャンルの短編本を読んできた。
 多湖 輝の「頭の体操」、「サザエさん」「ふりてんくん」などの本を読んできたことが生きている。
 いたずらや冗談といったことができる姿勢。
 瞬間的に演技し「教室の場を楽しく」するような担任でありたいと。
 そのような教師には保護者からの苦情も少ない。
 学級通信も、長い文章よりは、短くポイントを押さえて書き、発信するように心がけた。
 子どもたちの光輝くものを、忘れっぽいので日々メモをする。写真を撮る。
 そこからポイントを押さえ、瞬間、瞬間の価値を見つけて学級通信の記事にした。
 しゃべることが苦手なので、同じことを何度も言うのではなく学級通信で発信する。
 日頃から、そのようなトレーニングを積み重ねた。文章に赤ペンを入れてくださった先輩の存在も大きい。赤ペンを入れられることを嫌がらなくなった。
 野口さんは教師になってからいつもコンプレックスを持っていた。
 次の新しい学校でもうまくやっていけるだろうか?といった不安をかかえていた。
 そんな時に行ったのは、前任校の資料をとっておき、それを参考にしながら改善点を見つけていくこと。
 よって、資料は基本的に捨てずにとっておいた。
 野口さんのすごいところは、その蓄積力。
 いろんな形で細かく集めて、ためて、それが何かを生み出していく。
 教師になってからも、いずれ来るであろう様々な問題を解決、打開するいろんなアイデアを考えてきた。
 いずれくるであろう苦労を先にやっておく。
 そのようにしておくと、何があってもその場で対応できる。
 野口先生の実践を支えているキーワードは「蓄積力」です。
 授業や子どもの生活の一部を、短いエピソードとして蓄積する。
 そして、それぞれのエピソードの価値を分類・整理し、発信する。
 このようなシステムは、情報の発信を意図した蓄積であり、今後、身につけていきたい技能であると感じました。
(野口晃男:岩手県公立小学校教師、県総合教育センター研修主事・県教育委員会指導主事、盛岡市立小学校校長を歴任。子育て,保護者対応,若い教師の資質向上など役立つ「校長室の窓から」を自費出版、週刊教育資料で校長講話を連載)

 

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