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教師は情熱が第一条件だが、そこに技がなければいけない、エンカウンターを採り入れて生徒同士の関係を深め、荒れの克服をめざした

 鹿嶋真弓先生は、「エンカウンター」という手法を使って、生徒同士にコミュニケーションをとってもらい、クラスの絆を深めていくという教育で、有名な先生です。
 鹿嶋先生は、今では、いじめのない理想のクラス作りの第一人者ですが、やはりここまでの道のりは壮絶なものでした。
 鹿嶋先生が40歳のとき、異動して受け持ったクラスは、いわゆる学級崩壊状態。
 鹿嶋先生が教室に入ると「ウザイ」「ババア」「帰れ」と言われた。
 何かしゃべると「聞いてねえよ」と返ってきたそうです。
 授業中に机の上を走りまわる生徒、理科の実験中、火のついたマッチが飛んできたこともあったそうです。
 鹿嶋先生は、胃潰瘍になり、学校の校門をくぐるのが怖くて、帰ってしまったこともある。
 「人間やめますか?それとも、教師やめますか?」というような状況だったそうです。
 鹿嶋先生は、20年近く教師をやってきて、はじめて「教師を辞めたい」と思った。そして、友達に「教師を辞めたい」と相談したそうです。
 友達から帰ってきた言葉は、「鹿嶋さんらしくないね」でした。
 そこで、鹿嶋先生は、ハッとします。自分が20歳代の頃、ガムシャラに教師をやっていた時のことを思い出します。
 「今の私は、自分の苦しみから逃れるために、昔のように本氣で生徒に向き合っていない」
 「本当に一番苦しいのは、子どもたちじゃないだろうか?」
 「子どもたちに、何かしてあげられないだろうか?」
 と鹿嶋先生は考えました。
 子どもたちが担任を無視したのは、前学年の担任6人のうち5人が勤務継続年限のため他校へ異動となり、生徒たちは「見捨てられた」と感じ、教師を信頼できなくなっていたからだった。
 同じ学年の担任は皆、夜遅くまで学校に残り対策を話し合った。
 6月初旬の2泊3日の移動教室で、小さいころに親から「してもらったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」を思い出す「内観」をやろうということになった。
 担任がまず自分の思い出を話した後、内証で親から預かっていた手紙を生徒たちに渡し、生徒たちが壁に向かって読んだ。
 生徒たちが感動している様子が背中から伝わってきた。すすり泣く生徒もいた。
 そして、その手紙を、生徒同士で見せ合い、コミュニケーションを取り始めたそうです。
 一人の生徒が鹿嶋先生のところにやって来て「先生読んで」と手紙を差し出した。それまで「ババア」と罵っていた生徒だった。
 鹿嶋先生だけでなく参加した教師みんなが変化の兆しを感じた。
 ここで鹿嶋先生は気づきます、
 「そうか、先生と生徒ではなく、生徒同士がコミュニケーションを取れる方法を考えればいいんだ」
 そこから「エンカウンター」を使って、生徒同士がコミュニケーションをとれる方法を作っていったそうです。
 「思っていることは言う、書く」を継続することで関係性を深めていくことが大切だと考え、何かをしてくれた友だちにお礼のメッセージをあげるエクササイズ「あなたに感謝」を席替えの度に行った。
 次第にクラスの雰囲気がまとまっていくのを感じた。
 担任による日ごろの観察と合わせて「気になる子」をピックアップし、学年会やスクールカウンセラーなども交えた検討会で対応を話し合う。
 また、年2回の「ハートフルウィーク」では、自分の話したい先生を選んで相談ができるようにもなった。
 「エンカウンターの授業が生きるのは、仲間の教師の存在と学校全体での取り組みがあってこそ」と鹿嶋先生は強調する。
 受験への対応でしばらくエンカウンターの授業をできずにいると、給食の最中に一部の生徒たちが「勝手にエンカウンター」と称して、友人への感謝の気持ちを伝え合い、拍手をしていた。
 「自分のした行動が人から感謝される」→「自分の行動は人を喜ばせると自覚する」→「他の人にも同じ行動をしてみたい」→「他の人からも感謝される」と言う思考や行動が強化された成果だと、鹿嶋先生は感じた。
 「エンカウンターですぐに生徒が変容し、自己成長していくわけではありません。日々揺れ動く思春期の心に寄り添い、そうした揺れに対して臨機応変に展開していくことこそ、いまの中学で求められているのだと思います」
 生徒同士にコミュニケーションのきっかけを与える「エンカウンター」(構成的グループエンカウンター)は、アメリカで開発された考え方を、日本の教育心理学者・國分康孝氏が持ち込んだ。鹿嶋先生はそれを現場で実践した先駆者の一人だ。
 例えば、「愛し、愛される権利」「きれいな空気を吸う権利」「遊べる・休養できる時間を持つ権利」など鹿嶋が提示した10の権利のうち、何が一番大事かを生徒達に話し合わせる。
 6人ほどのグループに分かれ、それまで話をする機会の少なかった生徒同士も意見を交わす。
 大事にする権利も、その理由もそれぞれ違う。話し合うことで、互いの価値観を知り、関係が深まっていく。
 鹿嶋先生がこうした授業を取り入れる背景には、自身の教師生活の中で感じている「生徒の変化」がある。
 最近の生徒達は、コミュニケーションの力が落ちているというのだ。
 人付き合いが苦手で、ほっておくと、なかなかクラスメートと関わろうとしない生徒もいる。
 核家族化が進み、地域社会の結びつきが薄れている昨今、他人と関わる場として、学校の役割はますます大きくなっていると、鹿嶋先生は考えている。
 鹿嶋先生は、さまざまなエンカウンターのプログラムを駆使し、生徒同士を関わらせる。生徒一人一人が絆(きずな)の糸でつながっていれば、いじめや学級崩壊は起こりえない。
 生徒同士のネットワークが張り巡ったクラスを鹿嶋先生は常に目指している。
 鹿嶋先生は、
 「自分は独りよがりだった。私ばっかり、なんで私ばっかりこんな辛い目にあうの、と考えていた。けど、見方を変えた瞬間に、周りの人を支えたいと思った」
 「視点を変えれば、光は必ず見えるんだ」
 「教師は情熱が、まず第一条件」
 「情熱だけではダメだなっていうことを体験したので、そこにワザがなくちゃいけない」
 「立ち止まることなく、いつも研究をし続けながら、現在進行形で実践する人でなければいけない」
 と語る。
(鹿嶋真弓:広島県生まれ、東京都公立中学校教師(30年間)、神奈川県逗子市教育研究所長を経て高知大学教授を経て立正大学特任教授。文部科学大臣優秀教員表彰。日本カウンセリング学会賞受賞。専門は学級経営、人間関係づくり、カウンセリング科学。構成的グループエンカウンターなど教育現場に活かせるワークショップを展開。『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK)出演)

 

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