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「役者」として演ずることは、生きること

 仲代達矢さんの父親はすごく歌舞伎が好きで、仲代さんは小さな頃からだっこされたり、手をつないだりして歌舞伎を見ていました。
 後に、全く違う新劇の方に入ったわけですけど。歌舞伎には「型」というのがあります。仲代さんは新劇にも型があっていいんじゃないかと思っています。
 歌舞伎の型は300年から400年の長い歴史の中で、名優が一つずつ作り上げてきたものです。
 昔から芝居は「一声、二振り、三姿」といわれます。
 観客はよく歌舞伎役者の動きの美しさをたたえますが、新劇はせりふに頼るところがより大きい。
 しゃべりが崩れてしまうと、新劇というものは何だということになるので、少なくとも仲代さんの周りの若者たちには、それを一生懸命教えています。
 仲代さんが「無名塾」を始めたのは、月謝をとらず、少しでも理想を高くもつ役者が、ひとりでも出てくればいいと願う気持ちでした。
「無名塾」では、朝6時から夜9時まで芝居づけにして育てるのですが、「それじゃやっていけないだろう!」なんて、親や学校の先生が言うべきことも言ったりしていましたね。今は仲代さんも、やさしくなりました。
 役者商売の技術の一つは、観察なんですよ。
 例えば、電車の中で、前におじいさんがやって来たら、その人をじっと見て、どういう生活を送っているのか、どういう家族を持っているのか、どういう商売をしているのかと推察していくわけです。
 それが役者の一つの大きな勉強になるんですね。
 仲代さんは、その人の行為がどうしてそうなったのか突き止め、そこから演技の方法を探るのが好きです。
 仲代さんは他者を見て「この人はどういう生き方をしているのか?」と、盗んで演じます。
 つまり「芸」というのは、人間をみつめることが重要なんですね。
 仲代さんは、多くの映画監督と接してきました。
 黒澤明監督は、真っすぐな人です。例えば撮影しているとき「わぁ、ばかもの! どうしてそんなことができないのか。何なんだ。もっと勉強してこい」って言う。
 小林正樹監督は、ただ静かに「はい、もう一度。はい、もう一度」。ワンシーンを1週間ずっと繰り返して、オーケーがなかなか出なかったこともあります。
 岡本喜八監督とは、長い間、兄弟みたいに付き合っていました。彼は素晴らしい喜劇作家です。
 仲代さんがとても深刻な役を演じてきたにもかかわらず、彼はいろんな喜劇で、ぼやけた喜劇性を出すように私に要求してきました。
 仲代さんには、ぼんやりしたところがあることを、よく知っていたもんですから。
 演劇の中で、自分自身と戦い、自己主張する人間は、いい意味でも悪い意味でも「薄く」なったように思います。
 昔は「こういう芝居がしたい」と監督や共演者と言い合っていました。
 そんなふうにお互いの個性を出し合って生きていくことや、自分が本当に何をしたいかが、薄いような気がします。
 仲代さん自身は、演劇人・映画人に対しての想いがあります。
 演劇や映画、テレビがなくなったらこの世の中はどうなるのか?
 世の中から「うるおい」や、ものを見て感動することがなくなったら、すべてがそっけなくなるのではないでしょうか。
 今は「効率」の時代だと思いますし、文化や芸術は多少の退化をしていると思うけれど、最終的には「人間」が大事なんだと思います。
「役者」は体で人間を表現するプロとしての能力である「人間力」こそ、死ぬまでたたきこまなければならないでしょう。
「役者」は、厳しい職業です。定年はありませんが、年金もない。
 役者として生きていくことができる確率は、ほんのわずかでしょう。その厳しさは、仲代さんも同じなのです。
 プロ野球選手は「40歳になったら引退」とよく言いますが、役者は違います。
「私は役者のプロです」ということはない。いくら演技がうまくても芽が出ない役者もいれば、昨日までモデルだったような役者が人気になる場合もあります。
 そんな厳しさをもつのが「芸能界」なんです。
 仲代さんは、過ぎ去った過去をひきずることはせず、未来もわからないから考えない。今日一日をどう生きるか。どう「夢」をもつかが大切なのだと思います。
 演ずることは生きるということだと仲代さんは思っています。これは俳優という商売だけじゃなくて、全ての職業に当てはまるのではないでしょうか。
(仲代 達矢:1932年東京都生まれ、日本の俳優、無名塾主宰。劇団俳優座出身で演劇・映画・テレビドラマで活動を続け、日本を代表する名優の一人)

 

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