大人の言ったことが、子どもの心に響くようにするためには、子どもの視線に合わせて、一対一でほめ言葉で接するようにするとよい
子どもの心に響くようにするためには、子どもの視線に合わせて、一対一でほめ言葉で接するようにするとよい。
上から目線に構えて、説教しないこと、他人数相手に話さないことである。
多人数相手に語りかけても何も伝わらないし、心にも響かない。
教育相談をしている私に、家にきてほしいということでタカシの家を訪問した。
タカシの父親は医者で、タカシに一流大学医学部への進学を強要した。
二度の大学受験に失敗して部屋に閉じこもり、出てこない生活を二年も続けていた。
母親の顔は見たくないし、父親が行くとナイフを振りかざして大暴れするので近づくこともできなかった。
私が行ってもドアを開けないので、部屋の前に座り込んだ。
二時間もたったころ、私に根負けしたのか「おい、おまえ、入ってもいいぞ」と、少しドアが開いた。
部屋に入り、あれこれ話をするうちに自分の気持ちを少しずつ話し始めた。
初対面の私に十時間にわたって怒とうのように話し続けた。
外の空気を味わうためにドライブに誘ったあと、タカシの部屋に戻った。
疲れたので一緒に寝ることにした。
タカシがすりよって私に抱きついてきた。
しっかりと抱きかえしてやると、安心して眠ってしまった。
今まで、両親に自分の思いを抱きしめてもらえず、ずっと辛い思いをしていたのだろう。
親からは指示や命令ばかりで、受容されたり認められたりすることが少なかったのではないか。
その証拠に、タカシと私が抱き合って眠ったことを母親に話すと、ハッとしたように「私たちのこれまでの態度に非があったのですね」と理解してくれた。
覚醒剤のような常習性のあるものは、一斉にやめさせることはできない。なぜあんなものに子どもたちが魅入られるのか。
家庭では「おまえのような子どもは産まなきゃよかった」と言われ、先生には白い目で見られ、友だちには無視され、なにもかもおもしろくない。
そんなとき、覚醒剤は、快感を覚え、一時的にでも彼らに嫌な現実を忘れさせてくれる。
幻想の世界に心を遊ばせていなければ、心のバランスを保てない彼らの気持ちもわかるような気がした。
このような生きる喜びを知らない子どもたちには、一人ひとりと真剣に向き合わないと、効果は絶対に表れない。
ある子どもの例では、延々十時間、手を握って話し込んだ。
「いつでも君の味方になってあげたい。応援しているから、何かあったら相談に来てほしい」
私は、人間というものはさまざまな不本意な思いを心に抱かえながら生きていかねばならぬこと。
その中でよりよい生き方を、最後の死の瞬間まで求め抜いていくことの価値を訴えた。
するとようやく「先生はとっても優しいんだね。わかった、もう明日からやめるよ」と約束してくれた。
やはり子どもはいつも「ぬくもり」を求めているのだということが身にしみた。
触れ合いたがっている子どもを拒絶すると、とんでもない方向へ曲がってしまうこともわかった。
子どもにとって、自分が必要とされているという気持ちは、善悪を問わず、何ものにも代えられないものである。
子どもを見守る親は、「あなたが大切だ」という心の抱擁を、ぜひとも忘れないでほしい。
(濤(なみ)川栄太:1943-2009年、小学校教師(20年間)、ニッポン放送「テレホン人生相談」回答者、教育相談(40年間)、悩める子どもたちに体当たりで励まし立ち直らせた)
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