「キレやすい子」を「キレにくい子」にするためには、どうすればよいか
キレやすい子は、直感的、自己中心的です。そして、状況判断が主観的で感情や対応方法が少ない。
感情の受け皿が少ないのは、発達過程で十分な快刺激を受けず弁別能力が発達せず、感情が未分化なままだからです。
自分の感情を的確に理解するには、客観的な思考能力を発達させる必要があります。
状況を的確に理解するには、「全体を見通す力」と、「状況を予測する力」が必要になります。
特に全体を見通すさいには、相手の視点にたって状況を理解することも必要です。
直感的な思考の子どもは、自分の具体的な体験を通してのみ理解しているため、体験していないことは理解できません。
ですから、子どもが体験している事実を把握し、正しい現実理解を与える必要があります。
他者の観点や立場を考えない考え方が自己中心的思考です。
「キレにくい子」にするためには、多方面からのものの見方、考え方、感じ方を発達させる必要があるのです。
そのためには、どんな受け取り方があるのか、例をあげてシュレーションしてみることから始めるとよいでしょう。
また、他者の立場に立って考えるようにするには、役割交換をして相手の立場に立った「具体的な体験」(ロールプレイングなど)を行うことで理解を促すと効果的です。
キレにくい子どもを育てる授業は
1 予防教育の内容・計画・展開
キレにくい子どもを育てるためには、怒りのメカニズムを子どもに伝え、「暴力・暴言・いじめ」などの誤った怒りの表現を予防することが大切です。
同時に、健全な「怒りの表現方法」も教えていく必要があります。
予防(啓発)教育
(1)内容
感情教育、客観的思考、問題解決能力を育成する。
(2)年間の授業計画に組み込む
国語・道徳・総合学習・HR等を用いて展開することができます。
(3)展開方法
自己理解から始めて、他者理解、相互理解へと進めます。グループで体験的に行うと特に効果的です。
2 グループ体験学習
グループで体験的に行うと効果があがりやすいのは、グループの力が働くからです。
自分の苦手なところを他の生徒が補ってくれたり、活動に参加せずに見ているだけでも多くの体験を学ぶことができます。
自己理解、他者理解が促進されやすくなり、共感性も生じやすくなります。
また、具体的な体験を通じると、共通のイメージや理解がしやすくなり、相互理解が促進され、活動中に「行動のお手本」が見られるため、活動の途中で自分の行動変容が促されることもあります。
3 学習計画の立案
段階をふんで行う必要があります。
たとえば、「共感すること」を学習する活動であれば、まず、子どもが「自分の感情が何か」を理解できて「相手の感情が何か」を感じられる力を備えていなくてはなりません。
したがって、
(1) 自分のクラスの問題を明確化する
(2) そのために必要な活動の目的を明確にして、活動を選択し、活動を導入します
(3) 活動後にフィードバックを行い「今日の活動を日常生活でどのように応用できるか」を考える活動を行う
どのワークから始めたらよいか、それぞれの目標をクラスの状況に照らし合わせてプランを立ててみてください。
また、一つを行った後でまだ難しいようであれば、一つ前の活動に戻ってみてください。
4 グループ活動の指導者の役割
キレにくい子どもを育てるグループ活動の目的は、子どもが自分でコントロールすることができるようにすることです。
ですから、活動の主役はあくまで子どもです。指導者は安全に活動ができるための環境を保障すること、および活動が順調に進むための援助をします。
したがって、導入部分は楽しく活動を進めやすい雰囲気づくりを行いますが、子どもたちが自発的に活動を始めたら、基本的には子どもにまかせます。
このとき、グループを支配しようとしている子どもがいれば、仲介して適切なリーダーシップを示し、乗り遅れている子どもがいれば、いっしょに活動に参加して励ましてください。
5 自分の感情を理解する
「自分が何を感じているのか」を認識するためには、自分の感情の質と量を表す「感情を表すことば」や、その概念を理解することから始めます。
朝・夕のHRでも、道徳や総合の時間を活用することもできます。
また、状況や気持ちを理解する力を育成するために、国語や英語の時間を当てることもできます。
実施するときは、子どもの発達状況によって、以下のように手法を変えると、理解されやすくなります。
(1)幼児から小学校低学年:目の前で具体的に体験(見る)する
ビデオや場面の写真、絵などで視覚的・具体的に示す。
(2)小学校中学年から高学年:最近の自分の体験を思い出す
(3)中学生:ことばや場面に対するイメージや概念を用いる
(4)高校生:論理的に定義づけたり意味づけたりする
自分の感情理解のためのワークは
(1)お顔の体操
朝夕のHRで、朝の体操気分で、快・不快の一つひとつの表情を皆でやってみます。
教師が「はい、これと同じ表情をしてみましょう。どんな気持ちですか?」と表情と感情のネーミングを促します。
(2)3分間スピーチ
話し手が前にでて、ある感情を表す表情をしてみせる。それがどんな感情を表しているかを当ててもらう。
そして、その感情になったときの、エピソードを話してもらう。
(本田恵子:早稲田大学教授 臨床心理士・学校心理士・特別支援教育士。中学・高校教師の後,カウンセリングの必要性を感じて渡米しカウンセリング心理学博士号取得。帰国後は玉川大学助教授等を経て現職。いじめ,非行,発達障害などが生じる背景を包括的に捉え,問題が生じる前の啓発教育,危機介入,問題行動を繰り返す子どもたちへの個別支援プログラムの開発,実践などを行っている)
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