魅力的な話し方をするにはどうすればよいのでしょうか
その人の生きざますべてが話の中に滲みでます。
昔から「芸は人なり」なんてことをよく申します。芸には、その人が今、生きているすべてがでます。
話というのもまたそうでしょうね。
話しには、その人の人生経験、年齢なりの声や風貌、やしなってきた知識、仕事に向かう情熱、そのときの熱意、人に対する思いやりといったことすべてが滲みでてきます。
ようするに、その人の生きざま、すべてが話の中に出ます。
これはなかなか大変なものです。だから、時間をかけて、人間の修業からしていきます。
話す人間に魅力があるか、ということが結果に出ます。
講談師は高座でしゃべって、お客さまに来ていただいて、お金をいただく商売ですから、厳しいところがあります。
話す人間に魅力があるか、ということがそのまんま結果に出てしまう。
言ってみれば、講談師は人間そのものが商品なんです。
あなたは、その場の「空気」が読めますか。
その場の「空気」が読めるか読めないかは、一つには思いやりの差です。
ふだんから、相手の身になって物事を考えているかどうか。
思いやりのたりない人が人前で話をすると、自分勝手な話し方をするものです。
話というのは、自分が何を言ったかではなく、相手にどう伝わったかが大事です。
ところが、それが分かっていない人は、自分の言いたいことを言いたいようにしゃべって満足する。
そういう人がいくら場数を踏んでも、場の「空気」がよめるようにはなりません。
ふだんから相手の身になって考えられるかということが、人前で話すときの、場の「空気」を読めるかということに関わってくるんです。
もっとも、どんなに思いやりがあって、ふだんから相手の身になって考えている人でも、経験が少なければ、場の「空気」を読みながら話すことは、できるようになりません。
話は聞いている人と一緒につくっていくものです。
それが一方通行になってはいけません。
どちらかがしゃべり続けて、一方がずっと聞いている。これは聞いている方にとっては辛いものです。
15分でも退屈でしょう。聞いている方は疲れますし、心を閉ざしていきます。
「話し上手は、聞き上手」という言葉があるくらいですから、まずは人の話をよく聞かなきゃいけません。
よく聞いていれば、次の言葉が自ずから出てくるものです。
講談でもそうなんです。一方的しゃべっているように思われるかもしれませんが、決してそうじゃありません。
コミュニケーションというものが基本にあります。
口からの声としては出ていなくても、お客さまは心の中でいろいろなことを思っています。
「今のところ面白かったな」「ちょっと疲れてきたな」・・・・。
心の中で思っていることは、表情や態度にでます。
目つきがかわったり、口元がゆるんだり、体を動かしたりする。
そういう変化を、見るというより、肌で感じ取って、話し方や話しの内容を変えていく。
そういう要素が、我々の話芸にはあるんです。
ある特定の話が面白いというお客さまが多ければ、それを多めにいれます。
話の中身はお客さまにつくっていただいている部分が相当あるんです。
お客さまは一人ひとり違いますし、その日その時によっても違いますから、心の中で思ってらっしゃることもさまざまです。
そのすべてに対応することはできないかも知れません。
ですが、そこにはだいたいの最大公約数のようなものが表れてきます。
それが、場の「空気」と呼ばれるものです。
その場の「空気」を感じ取って対応していくようなところがあるんです。
いちばん魅力的な話し方とは、なんでしょうか。
人間、誰でも自分にしかないものを持っています。
自分にしかない顔、自分にしかない声、自分にしかない人柄、自分にしかない興味、体験から得た知識・・・・・。
そんなものが素直に発揮されているのが、いちばん魅力的な話し方です。
そういう自分の武器となるものに気づけるかでしょう。
気づくには、やっぱり場数が必要です。
人とたくさん話をしているうちに、自分のこういう話は受けるんだというのが分かると思います。
それを意識して利用しようとすると、鼻持ちならなくなることがありますが、それは一時的なこと。
さらに場数を踏んでいくと、また自然になっていくものです。
もっとも大事なのは、話した後、毎回、必ず反省することだと思います。たとえば、
「上手くいかなかったときは、なぜ上手くいかなかったのか」
「上手くいったときには、どこが良かったのか」
「どうすればもっと上手くできたのか」
ということを必ず反省します。
失敗してもいいんです。その失敗をどう活かすかということが本当に大事です。
これもふだんからの心がけで「失敗はかならずするもの。その経験を活かそう」とする姿勢が大事です。
(一龍斎貞水:1939年東京都生まれ、講談師初の人間国宝。小さい頃からラジオで演芸に親しんでいた。5代目一龍斎貞丈から「ちょっと噺出来るか」と言われ、学生服姿で初舞台を踏んだところ喝采を浴び、講談の道に入ったという。2002年~2006年講談協会会長)
| 固定リンク
「教師の話しかた」カテゴリの記事
- ふだん発している言葉が毎日の生活に影響を与えている 中井俊已(2022.01.12)
- 声が変われば自信が生まれ人生が変わる 白石謙二(2021.09.04)
- 子どもたちに印象に残るような話し方とは 大内善一(2021.06.08)
- 発声の練習(あくび卵発声トレーニング)とは 平田オリザ・蓮行(2021.05.02)
- 子どもに話をするときのコツ 大村はま(2021.03.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント