読書マラソンでクラスが学びの共同体になった
掛川克義先生の読書マラソンは、教師が選んだ30冊の本を、クラス全員で回し読みします。
読んだら「感想ノート」に、自分の感想を10行、友だちの感想に対する意見を5行を書き、本と感想ノートを一緒に回し読みしていくという方式である。
あたかも駅伝のようにリレーして、最終的に全員が同じ本を30冊読み、本の感想を30回書き、友だちの感想を読み、それに対する意見を必ず書くという活動である。
この活動で掛川先生がねらっていることは、
(1)学級全体で読書の楽しさを共有すること
(2)読書の世界を広げること
(3)読書の習慣をつけること
である。
この読書マラソンを体験した子どもたちは、読んだ本について互いに話し合うようになり、読書の楽しさを共有することによって本を読む習慣や感想を書く力もついてきたという。
学級を学びの共同体にしていくことによって、本を読んだり、文章を書いたり、自分の意見を発表する力を確実に、全員につけていこうとしていることである。
個人学習から協同学習へと学びの形を変えることによって、基礎・基本の学力を確実に身につけていこうとする試みである。
具体的な実践を次に示します。
1 読書マラソンという言葉どうしてうまれたか
6学年が始まり「みんなで読書を楽しむための手立てはないか」と考えているときに,女子マラソンの高橋尚子選手の報道があった。
それを眺めていて掛川先生に「読書マラソン」という言葉がひらめいた。
「読書にマラソンがあってもいいじゃないか。みんなで楽しみながら読書の習慣を身に付けることができる」そんな思いが掛川先生に湧いた。
「読書マラソン」という言葉が生まれ,取り組みの構想が次々とできあがった。
2 読書マラソンの方法
(1)1週間に1冊,1年間に30冊の本を読む。
(2)ノートにかんたんな感想を書く。
(3)毎週月曜日に,本とノートを交換する。
(4)学級の図書係が運営する。
(5)「読書マラソン」が終了したら,感想ノートの自分のページを集めて,一冊のノートにする。
(6)30冊の本は,先生が責任を持って選ぶ。
(7)本の購入は,先生と親に任せる。
(8)本を交換するときは,どの本を読むか,期待を持たせるために,計画表を作り,月曜日の朝に読書係が発表するようにした。
3 読書マラソンの本を選ぶ
「この本に出会えてよかった」といってもらえる本を選びたいという思いで子ども向けの本を掛川先生は探したが,なかなか納得のいくものがなかった。
その中で,子ども向けの本30冊を紹介した「ザ・リバティ」の特集記事を見つけた。
特集では,本を3つのポイントで選び紹介している。その選び方は,読書の世界を広げたいという掛川先生の思いにぴたりと重なるものであった。
本選びの3つのポイントは、
(1)愛と感動を与えるもの。愛,夢,努力を伝える本
(2)21世紀に向けて大きな視野を持つための本。社会,科学,歴史の本。
(3)歴史上の偉人の伝記,子どもたちの心を耕す詩集。
4 読書マラソン30冊のリスト
(1) 愛と感動を与えるもの。愛,夢,努力を伝える本10冊
「タイムマシン」H・Gウェルズ
「ぼくの一輪車は雲の上」山口 理
「チルチルの青春」メーテルリンク
「マリヴロンと少女」天沢退二朗監修
「みどりのゆび」モーリス・ドリュオン
「最後の一葉」オー・ヘンリー
「星のひとみ」サカリアス・トペリウス
「ノンちゃん雲に乗る」石井桃子集1
「一ふさのぶどう」有島武郎
「アンデルセン童話集」
(2)大きな視野を持つための本,社会,科学,歴史の本10冊
「ともしびをかかげて」ローザマリ・サトクリフ
「経済とお金のしくみ」PHP研究所
「ひとしずくの水」ウオルター・クイック
「21世紀こども百科科学館」
「数と図形の発明発見物語」板倉聖宣編
「大きな大きな世界」かこ・さとし
「野鳥記」平野伸明
「海のなぞをさぐった人々」松江吉行
「大仏建立物語」神戸淳吉
「人物でわかる日本の歴史」
(3)歴史上の偉人の伝記・子ども達の心を耕す本10冊
「世界を変えた6人の企業家4」 フォード
「児童伝記シリーズ19」 コロンブス
「世界童謡集」 西条八十,水谷まさる
「おもしろくてやくにたつ子供の伝記4」 ライト兄弟
「少年少女のための日本名詩選集14」 八木重吉
「世界のお母さんマザー・テレサ」
「子供の伝記全集1」 湯川秀樹
「坂本龍馬」 小宮宏
「夢をつなぐ」 澤井希代治
「伝記世界の音楽家バッハ」 シャーロット・グレイ
5 保護者に呼びかける
学級通信で呼びかけた。読書マラソンの取り組みと,図書の購入計画の提案に,保護者から多数の意見が寄せられた。
読書マラソンの構想については,多くの期待と支持が寄せられた。図書の購入については,負担が大きくならないようにという要望が上がった。保護者の意見をよく聞いて,同意を得ておくことが大事である。
6 学校,学年の理解を得る
大分市立荷場町小学校は,1学年1学級で,学年内の話し合いは必要ないが,複数学級の場合は取り組みについての,同学年の理解を得る必要がある。
また,図書の費用で購入をした本については,学級で1年間独占する事について職員会議等での説明が必要である。校長・図書主任の快い了解を得ることができた。
7 図書の購入
図書費で購入できるか検討し,金額の高いものから10冊分を学校で買ってもらうことにした。一人あたり600円で購入する事ができた。
8 感想ノート
感想ノートは,B5版のノートを用意した。自分の感想を10行。友だちの感想に対する意見を5行。コメントを1行ずつ書くようにした。
表紙には,本の題名と番号,表紙の裏には図書のリスト,一番最後の頁に読書マラソン計画表をつけた。
9 感想ノートの留意点
(1)進み具合を把握する。
(2)記述が人を中傷する事がないようにする。
(3)続かない子に個別の指導をする。
(4)感想を読みあう時間を取ってあげる。
10 子どもの作文
子どもたちには,時々読書についての思いなどを,作文に書かせた。
作文は,5分刻みで回し読みをする。読んだら必ずコメントを書いて次に回す。
結構疲れるが,友だちの作文を読んだり,自分の作文を読まれたり,コメントを入れあったりすることは,楽しいらしい。どの子も,ニコニコしながら読んでコメントを入れている。
2学期の中ごろ書いた子どもたちの作文と友だちのコメントを読むと,読書マラソンが読書の習慣作りとして学級に位置づいてきた様子が分かった。
読書の楽しみや読書から学ぶ知識だけでなく,読書マラソンを通して味わえる友だちとの交流の楽しさや新しい本に出逢える期待などが作文にうまく表現されている。
子どもたちが読書マラソンの魅力を体で感じ,読書が習慣になっていく様子を見るのは,担任の大きな悦びであった。
11 好きな本のアンケート結果
2月に好きな本のアンケートをとりベストテンを選んだ。
自然科学の本が上位に入り古典といわれる名作も人気を得た。本選びの3つのポイントから,それぞれ選ばれていて,子どもたちが幅広い本に興味を持てたと思う。
みんなが選んだ読書マラソンベスト10
第1位 ひとしずくの水 19票
第2位 タイムマシン 10票
第2位 野鳥記 10票
第4位 子ども百科科学館 9票
第4位 最後の一葉 9票
第6位 みどりのゆび 8票
第7位 坂本竜馬 7票
第7位 一ふさのぶどう 7票
第7位 アンデルセン物語 7票
第7位 人物がわかる日本の歴史 7票
読書マラソンは子どもだけでなく,親も巻き込んで,読書の輪が家庭にも広がっていった。親の期待にもこたえられる取り組みであったと喜んでいる。
12 「読書マラソン」5つの成果
読書の本当の成果は,子どもたちが,手にした読書の習慣の力を十分に生かして,将来にそれぞれの夢を実現しようとしたときに,大きな力となって現れるのであろう。
成果をまとめてみると、
(1)幅広い本に触れ,読書の世界を広げることができた。
(2)共通の本を読むことで,共感したり,感じ方の違いに気づいたり認め合ったりすることができた。
(3)感想ノートは,感じ方をまとめたり,発表したりする良い機会となった。
(4)教師が「読書マラソン」に参加することで,子どもの感覚に直にふれることができた。
(5)読書を通じて,親子が同じ話題で話し合うなど,家庭にも読書の波が広がった。
さまざまな読書の習慣作りの取り組みの中で,この「読書マラソン」は,学級全員で読書の習慣作りに取り組むとてもよい方法である。
多くの方に「読書マラソン」を実践して,子ども達に「読書の習慣」という最高のプレゼントを手渡して欲しいと願っている。
読書の旅を共にしてくれた29人の子どもたちと,物心共に支援をしてくださった保護者の皆さんに,心からの感謝をおくりたい。
(掛川克義:大分県大分市立小学校教師。2002年、国語:読書マラソンのすすめ-読書の習慣作りの実践で第17回東書教育賞最優秀賞受賞)
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