« 教師になろうとする若い人たちへのメッセージと、新聞を教材にして授業を展開する運動(NIE)の取り組みとは | トップページ | 教師になった経緯と、子どもの科学概念がうまく形成されるツボとは、理想と考える教育のありようとは »

理科の学習課題方式の授業とは、どのようなものでしょうか

 玉田泰太郎らが開発した相互作用型授業は「到達目標・学習課題方式」または単に「学習課題方式」と呼ばれることがある。
 しかし,東京学芸大学の新田英雄教授は、名称は玉田の意図を十分には反映できていないように思われ「玉田方式」と呼ぶことにした。
 玉田方式は次の手順で行われる。
1 教師は課題を出す
2 生徒は自分の考えを書く
3 クラス討論
4 討論を踏まえて,練り上げた考えを書く
5 実験・観察
6 実験・観察で明らかになったことを書く
 なお,生徒が書いている間,教師は机間巡視し,生徒の考えを把握しておき,クラス討論での発言を予め把握するとともに,自主的な発言が無い場合に発言させる生徒とその順序を構想しておく。
 また,討論で出てきた考えを黒板に書き並べ,それぞれの生徒数の分布を討論前と討論後に調べる。
 玉田方式では,生徒が予想を書き込んでいる間の机間巡視で生徒の考えを把握し,生徒の自由な発言の中に計画性を潜ませ,黒板に生徒の代表的な考えを並べることによって,選択肢をつくりだす。
 その際、「重要なのは,少数意見を必ず拾い上げることである」と玉田は言う。
「選択肢を出しておいて予想させる場合もあるでしょうが,子どもたちが射程距離にある問題に今までの学習の中からどれだけ接近できるか,切りこんでいけるかという,かなり自由な予想のたて方をさせるのでも,一つ授業が成立すると思うんです」
 玉田方式のように予想や考えをノートに書かせ,それを元に意見を発表させるという手法であれば,教師に指名されれば,書いた自分の考えを読めばよいので,発言しようとしない生徒の考えをもクラス討論の中に取り入れることができる。
 教師の指名が多くなった場合の玉田方式のクラス討論は,上手に演出された劇のように感じられる。
 物理に限らず,自然科学の授業においては,自由に考えてよい,ということを生徒に確信させることが,おそらくは何よりも重要なことなのである。
 どのような相互作用型授業にせよ,議論で自由に発言できること,あるいは自分の考えを自由に書けること,これらが教師と他の生徒から,保障され,尊重されていることが,生徒が真に能動的かつ創造的な態度で自然科学に取り組めるようになる鍵ではないだろうか。
 玉田は,自然科学教育の目標を,次のように述べている。
「すべての子どもたちが初歩的であるが,現代自然科学の基礎となる事実・概念・法則を,科学の方法にしたがって,自分たちの集団の力で獲得することにより,自然にはたらきかけ,自然を科学的に認識すること」
「また,この目標を達成するためには「理科教育の内容や具体的な教材の構成について,その根本的なあり方にまでたちかえって再検討することが重要となる」
「授業が成立するかどうかは,授業技術も必要であるが,根本的には『何を、どう構成するか』の問題にかかわっている」と述べている。
 そして,教育内容を,「到達目標―具体的内容―教材構成」という階層構造で構築し,教材構成の中に,授業での学習課題が位置づけられる。
 例えば,小学校理科に設定した到達目標「物にはすべて重さがあり,保存される」の下には,「物は変形しても重さは変わらない」や「物が水に溶けて見えなくなっても重さは変わらない」などの具体的内容が置かれる。
 さらに,個々の具体的内容はいくつかの教材によって構成され,例えば「ねん土をまるめたり,ひろげたり,ちいさくちぎったりしたとき,全体の重さはどうなるか」といった学習課題が授業で提示される。
 教育内容は「学習の正しい系統性」に基づいて構築されなければならないが,その際,「内容・教材の系統性」と,「認識の順次性」の 2 つの観点から系統性を見出さねばならないと,玉田は主張する。
 これは「どういう問題を、どういう順序で」ということである。
 教材・内容の系統性は「自然科学の体系や法則の論理的構造」からある程度定まるものの,「認識の順次性」に由来する系統性は「子どもが自然科学的な事実や法則をどのようなすじ道で認識していくかを明らかに」していかないと見出せない。
 面接調査という手段も補助的には考えられるが,授業における「認識の順次性」を明らかにするためには,生徒の認識過程を実際の授業で観察し,試行錯誤を経て確立していく以外に方法はない。
 なお,どのような学習課題を立てるにせよ,次の玉田の言葉を忘れてはならない。
「子どもたちが学習課題として,主体的にとりくむ意義を認め得るものでなければならない。」
「子どもの認識をひっくりかえせるような教材をえらぶ。しかも,それを投入することによって,基本的な概念みたいなものに確信をもてるようにする」
 高校以上の物理教育においては,数式を伴った理論的,定量的な概念理解が要求される。
 したがって,授業には多様な相互作用を導入する必要があるだろうが,どのような授業法をとるにせよ,生徒の素朴概念をひっくり返し,物理の基本法則に確信をもてるようにすることが,中心課題の一つであることは間違いない。
 玉田は,教育現場における教師の実情を次のように記している。
「私たちはさまざまな困難な条件をかかえ,時間的にも追いまわされ,教材研究も十分にできないし,研究の場も限られています」
 実際、研究をまとめる時間など無いと訴える教師は多いし,その実情はよくわかる。
 ただ,玉田は次のように続けている。
「しかし,毎日の授業そのものが実践研究の場であると考えると,研究の時間と場をもっているともいえます」そして,
 「自然科学の実験のように,真否を一義的に問うことができるというわけにはいかないにしても,1 時間 1 時間の授業は,『何を、如何に』教えるかの実践研究における実験に当たると言えましょう」と述べている。
 この考えは,どのような授業法をどのようなカリキュラム構造で展開する場合においても,普遍にあてはまる筈である。
 授業は絶えず再構築されていくものであるが,新たな教育実践を,研究というスタンスで,客観的妥当性を保証しつつ発表する。
 その際には,過去の物理教育の研究成果を十分検討し,自らの研究で得られた新たな知見は何かを明快に主張する。
 このような研究を積み重ねていくことによって,建設的かつ効率的な物理教育の発展がなされるはずである。
 そのためには,初等中等教育に携わる教師と大学の研究者とが連携し,緊密に相互作用しながら研究を推進していくことが重要である。
(新田英雄:東京学芸大学教授。専門は物理教育)

 

|

« 教師になろうとする若い人たちへのメッセージと、新聞を教材にして授業を展開する運動(NIE)の取り組みとは | トップページ | 教師になった経緯と、子どもの科学概念がうまく形成されるツボとは、理想と考える教育のありようとは »

授業のさまざまな方法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 教師になろうとする若い人たちへのメッセージと、新聞を教材にして授業を展開する運動(NIE)の取り組みとは | トップページ | 教師になった経緯と、子どもの科学概念がうまく形成されるツボとは、理想と考える教育のありようとは »