どの授業がよいかは生徒が決める、一つの授業方式に固執しないで子どもの反応を見てダメなら方針を変える
自分の経験を振り返ってみると、ある特定の授業方式に徹底的にこだわることは必要なことである。
特に、自分自身の経験がない若い時期は、大いに真似をすべきである。
ただ、注意しなくてはならないことは、世の中には今、実践しているものと違う方法もあるということを認めることである。
ときには、他の方法を試してみたり、本や雑誌を読んで勉強してみるべきである。
そして、自分の前にいる子どもたちの実態、学校の自然環境や物的環境をよく把握し、どのような展開が最も適しているかを判断し、独自の方法をつくりあげていくべきである。
授業を柔軟なものにするには、教師の価値観がガチガチではダメである。
「授業は整然としているべきである」という価値観をもった教師には、課題選択学習などで一人ひとりの生徒が違った取り組みをワイワイやっている授業には耐えられないだろう。
生徒がどんどん発言するような活発な討論の授業もできないだろう。
また、ときには教師がよしとする授業と生徒たちが求めている授業との食い違いもあるだろう。そんなときに「今までやったことなかったけど、ちょっと違う方法でやってみようか」という気になれる教師でありたい。
子どものための授業であるべきだ。子どもの反応を見てダメなら、とっさに方針を変更していかねばならない。瞬時に違う対応を選択しなくてはならないのである。
教師は授業において、常に瞬間的な判断を生徒に求められているようなものである。
そこで、いつでもうまく対応できれば「授業の達人」といわれるようになる。
対応に失敗すると、ギクシャクした授業になり、へたをすると「教師のひとり芝居」になりかねない。
瞬間的な判断を的確に行うためには、当然ながら複数の対応を知っていなくてはならない。
しかも「これが絶対」というものはない。ここでファジーな選択が必要となってくる。
「ある程度よさそうな対応」の中から、一番マシそうなのを瞬時に選ぶのである。
それでダメだったら、その次にマシなものをと。何しろ、本を取り出して調べるヒマはないのだから。
いろいろな授業方式、指示や発問の中で、どれがよいかは生徒が決めることである。
教師が「○○式でいい授業ができた」と自己満足していても、生徒が授業に満足できていなくてはダメである。
教師が生徒の反応を丹念に記録し、いくつかの方式のどちらの方が生徒がよい反応をしたかで、改善・選択を加えていくのである。
このことは、教師が授業について論じるときにもあてはまる。
教師がある授業方式の是非を主張するときには、常に生徒の反応や変容、アンケートや感想を基礎データとして明示すべきである。
それなしに「この方式はよかった」といくら教師が強調しても、説得力はない。
小森栄治先生は「理科は感動だ!」を合い言葉に理科に対する興味関心を高める授業や理科室経営に力を入れてきた。
やり方しだいで、中学生はどんどん理科好きになるし、好きになれば学力も高くなるということを実感している。
生徒が熱中する授業を求めるとき、忘れてはならないことがある。それは、教えている教師自身が、その授業に熱中できるかという点である。
教師自身が熱中し、納得した教材には、子どもたちも熱中するということである。
小森先生の授業の感想に「先生自身が楽しそうにやっていた」「先生が、楽しそうですね」と書いてあることが多い。
理科の実験で、試験管の中に集めた水素の中で、ろうそくは燃えるかという定番の実験をやっているとき、いつもわくわくする。
なぜかというと、いつも逆転現象が起こり、「えっー」という歓声があがるからだ。その歓声が、うれしくてしょうがない。
変化ある繰り返しの中で、ぼそりと「酸素がないからだ」というつぶやきが出てくる。小森先生が言葉で教えるのではなく、実験の結果から、生徒自身が納得した瞬間である。
そういう生徒の変容に喜びを感じられる授業を追究していきたい。
(小森栄治:1956年埼玉県生まれ、埼玉県公立中学校教師を経て日本理科教育支援センター 代表。
89年および03年に、ソニー賞(ソニー子ども科学教育プログラム)最優秀賞を受賞。埼玉県優秀教員表彰,文部科学大臣表彰,辰野千壽教育賞(上越教育大学)を受ける)
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