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子どもの情緒を安定させるには自律訓練法が有効である、どのようにすればよいか

 自律訓練法とは、リラックスした体勢で、決まった言葉を用いて自己暗示を行い、気持ちや体調の安定を目指す方法です。
 ドイツの精神医学者であるJ・H・シュルツが創始しました。
 自律訓練法は瞑想にヒントを得ているとされており、神経症や心身症の治療方法として考え出されたものです。
 現在では一般にも広く普及しており、気軽に実践できるセルフケア的なもの、スポーツ選手がパフォーマンスを上げるために使うもの、企業が仕事の生産性向上のために研修として取り入れるものなど、さまざまな形が生まれています。
 自律訓練法は、心身を眠りと目覚めの中間の状態に持っていきます。
 リラックスしてボーッとしているときや、うつらうつらしているときに近い心身状態を作り出すのです。
 このような、自律訓練法で作り出す、睡眠と覚醒の間にある心身の状態を「自己催眠状態」といいます。
 自己催眠状態には、心の疲れやストレスを取り去る効果があるとされていて、以下のような効用を生み出すとされています。
(1)蓄積された疲労を回復することができる
(2)イライラせず、おだやかな気持ちでいられる
(3)自己統制力が増し、衝動的行動が少なくなる
(4)仕事や勉強に対する集中力がつき、能率があがる
(5)身体的な痛みや精神的な苦痛がやわらぐ
(6)内省力がつき、自己向上性が増す
 今日、学校における自律訓練法の役割は急激に増大しています。
 小学校・中学校・高校を通じて、情緒不安定、あがり、自信喪失、対人関係の不調、学業不振、場面恐怖など、子どもが抱かえる解決すべき教育上の課題が多く出現しています。
 これらの不安や緊張に伴う問題行動の克服、心身の健康維持、ストレス緩和、さらなる教育効果の促進に、自律訓練法は有効です。
 自律訓練法により、腕や脚に重たさや暖かさを感じることによって、α・β波が出て感情の沈静化が得られます。
 訓練は、まずリラックスした身体の姿勢をとることから始まります。
 その姿勢で次の言葉を順番に頭の中で反復暗唱し、1日2回~4回、1回3~10分、毎日練習します。
 段階的に「心身の調節」を得ていくのです。
 まずは姿勢と呼吸を整えましょう。自分が楽だと感じられる姿勢をとります。椅子の背もたれにゆったりと身を任せた状態が良いでしょう。
 それから、ゆったりとした腹式呼吸を行います。口をすぼめてゆっくりと息を吐き切り、お腹に空気を入れる感覚で鼻から深く息を吸います。
 これを5~10回、気持ちが落ち着くまで続けます。
 呼吸が整い気持ちが落ち着いたら、リラックス状態を心の中でつぎのような言語公式を唱えながら、身体の感覚をイメージしていきます。
 例えば、第一公式は「手足が重たい」です。この言葉を心の中で唱えながら、手足が重たくなっている感覚をイメージします。
 第一公式:「手足が重たい」
「右腕が重たい」「左腕が重たい」「右脚が重たい」「左脚が重たい」/「両腕が重たい」「両脚が重たい」/「両手両脚が重たい」
 第二公式:「手足が温かい」
「右腕が温かい」「左腕が温かい」「右脚が温かい」「左脚が温かい」/「両腕が温かい」「両脚が温かい」/「両手両脚が温かい」
 第三公式:「心臓が静かに脈打っている」
 第四公式:「楽に呼吸ができる」
 第五公式:「お腹のあたりが温かい」
 第六公式:「額(ひたい)が涼しい」
 自律訓練法の最後には、かならず「消去動作(終了動作)」を行います。
 リラックスした姿勢から身を起こし、手足の屈伸・背伸び・深呼吸を数回ずつ行います。
 自律訓練法の効果を最大限に得るためにも、この過程を欠かさないようにしてください。
 心身がリラックスしたからといって、消去動作を怠ると、かえって脱力感や不快感に襲われることがあるのです。
 自律訓練法の教育的効果は
(1)知的側面:注意力・記憶力の改善
(2)社会的側面:学習態度の積極化、人間関係の緊密化、他者意見受容の増大
(3)情動的側面:情動の安定、忍耐力の増大、攻撃的態度の減少
 学級への適応は、担任が自律訓練法を事前に体験し、学級の日課として実施します。
 そして、子どもに記録させると、子どもの状態の確認や、技術的な誤りへの修正や助言に役立ちます。正しく理解し、実践することが肝要です。
 自律訓練法では、緊張がとれることによって、血流が増えたり、筋肉がゆるんだり、内臓の働きが活発になったりするなど、心身にさまざまな変化が起こります。この変化が、人によっては副作用につながる場合があります。
 心臓に異常のある人、糖尿病のある人、頭痛の持病がある人、脳波に異常がある人などは、一部のステップで副作用が起こる可能性があります。
 また、妄想の出る精神疾患のある人は、もともとの精神症状が悪化する場合があります。
 何かの病気や障害などですでに医療機関にかかっている人は、自律訓練法を実践する前に必ず医師に相談しましょう。
 医療機関にかかっていない人も、念のため上記に当てはまるような持病がないことを確認してから自律訓練法に取り組むのがベストです。
 自律訓練法は、心身の不調のケアだけでなく、日常の気軽なセルフケアや、仕事や勉強の能率アップのために活用することができます。
 正しい知識のもと、生活に取り入れていってみましょう。
(山崎洋史:昭和女子大学大学教授、総務省消防庁消防大学校客員教授、臨床心理士)
(「学校教育とカウンセリング力」山崎洋史著 学文社 2009年)
(井上雅彦:1965年生まれ、鳥取大学教授。公認心理師、臨床心理士、専門行動療法士、専門は応用行動分析学、自閉症と発達障害への支援、臨床心理学、特別支援教育)

 

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