教師が授業するうえで知っておくべきこととは
たとえば、理科の授業を受けた後、自然(物質)の姿(自然像)がとらえられているようになっていることがベストです。
あれもこれもの内容を教えるよりは、内容をしぼり、その内容を豊かに扱ったほうが、授業後、頭に残りやすいのです。
自然科学の基礎的で本質的な内容(より適用範囲が広く一般性があり、具体的な事実や現象にぶつかったときに生きて働く知識になるもの)を、1時間1時間の授業で扱いたい。
授業の導入はよく考えたいものです。
「この時間はこの課題を全員で考えよう」と、その授業の要になる課題を出してもいいし、はっとするような事実を見せてもいい。前時の復習から始める人が多いのですが、一番よい方法か考えものです。
導入で子どもを引き込んだら、できるだけ早くその時間の「中心」に迫っていきます。
子どもが「この時間は、こんなことを学習するんだ」ということが鮮明にわかるようにもっていくことです。
子どもに考えさせるときは、子どもが「考えるもとの基礎的知識を持ち、考える方法を知っている」ときです。
その場合にも、教えてしまうと考える機会を奪うことになります。
考えさせるときには「発問」が行われます。
前提は「発問」の意味が全員のものになっていることです。
「発問」は、「電波とは何か?」といった漠然としたものよりも、
「電波はどこにあるか?」「電波がきていることをどうやって知ることができるか?」など具体的なものがよいです。
漠然としたものになりやすいときには、選択肢を3つ、4つつけると考えやすくなります。
教師は一般に発問すると、瞬間的に答えを要求しがちです。
しかし、その発問が、その時間の核となる主発問であれば、考えるゆとりを与えたいものです。
ノートに「自分の考え」を書かせると、そのゆとりを取りやすくなります。
全員が、それぞれに精一杯考えて、それらの考えの交流から授業を進めたいのです。
ノートに自分の考えを書かせたり、作業させたり、問題を解かせたりしているとき、机間巡視を行い
ます。
取り組みの弱い子どもには援助・激励したりすることができます。
予想や考えが分かれたときには、少数意見から発表させるとよいようです。
「経験」「常識」などからくる間違いは、実験などで正すことです。
科学的認識へ至るためには、くぐりぬける必要がある間違いも多いものです。
一言で否定しないで、その間違いの根拠(科学史の知識が参考になる)をみることにしましょう。
子どもが学習の主体者なのだという立場で、子どもの発想、意見を大切にしながらも、教師は授業の主役として、子どもの認識にゆさぶりをかけて科学的認識をどうつくっていくかを考えて授業づくりをする必要があります。
子どもたちは多様です。みんなと意見を言い合うことにおもしろさを感じる子もいれば、自分たちで実験することにおもしろさを感じる子もいます。
子どもたちの多様な要求がどこかで満たされるような授業をこころがけましょう。
授業のねらいを達成するには、内容によっては討論に、あるいは実験に時間をかけたりします。
内容にふさわしい形態を考える必要があります。
お話や読みものを取り入れたりすることが効果的になることもあります。
理科の授業で、実験・観察は特に大切です。
子どもたちは一般的に実験が好きです。ただし、“実験をやらせさえすれば楽しい、おもしろい”ということにはならないでしょう。
実験の意味がわかり、その実験そのものにおもしろい要素があり、実験から何かがわかる、あるいはその実験から認識がさらに深まるという条件をそなえた実験をやりたいものです。
理科の授業には、理科ならではの知的なおもしろさ、実験のおもしろさがあります。
楽しくわかる理科の授業を構想、実施すれば、子どもたちが嬉々として学ぶ姿に教師としての快感を感じるはずです。
そういう授業を経験すれば、教師としてのやりがいを感じ、
「好奇心にかられておもしろい教材探しをするようになる」し、
「ちょっと大変でもやりがいがある(子どもからの評判もいい)ので、授業の準備も苦にならない」ようになります。
恐ろしいことは、マンネリズムになることです。
教師自身がいつも新しいことを学習しようとする姿勢を持ち続ける必要があります。
時には、これまでの授業内容、方法を否定して新しい内容、方法へと向かうことにチャレンジしましょう。
それは、多くの経験を積んできた人であっても必要なことです。
(左巻健男:1949年栃木県生まれ、埼玉県さいたま市立中学校と東京大学教育学部附属高校教師を26年間務めた後、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授を経て法政大学教授。雑誌『理科の探検』編集長を務めた)
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