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優れた授業(国語科)を参観し、学んだこと

 出会いが人を作る。それも存在感のある人との出会いが人生に新たな眼を開いてくれる。
相澤秀夫先生はその一人である。
 宮城教育大学教授の相澤秀夫先生は全国の中学校で国語・道徳の師範授業をされている。
 また様々な教員研修の講師を務めておられる。
 2014年に兵庫県のある中学校で師範授業をされたので参観に行かせていただいた。
 その相澤先生からの学びである。
 さっそうと風のように教室に入られた。
「今日は立つ必要は無いからきちっとつけなさい」
 と机をつけさせる。
 みるみる教室内に参観者のスペースができてくる。
 気持ちよく場所が空いていく。
「机の上には教科書とノート、鉛筆二、三本、赤ペンと消しゴム、そのほかの物はしまいなさい」
 シンプルな指示、柔らかい声であるが、全員やらせる。やらせきる。
 今日の学習の目当てを板書される。
「すぐに写しなさい。素早く書きなさい。鉛筆から煙が出るくらいに早く書きなさい」
 という指示が出る。
 おそらくもう二度と出会うことのない子ども達との1時間の授業、1分1秒もおろそかにはできない。
 そして黒板の左端に「すばやく」と書かれる。
 それから呼名をしていく。
 返事は「かしこい声」で返事をしなさい。「かしこい声」と黄色で左端に記す。
 手に持った座席表(B4版)を見ながらひとり一人の名前を呼ぶ。
 声を聞いてほめる。全員をほめる。表情もほめる。そして握手をしていく。
 全員呼名握手を終える頃にはすっかり相澤先生の世界になっているのである。
 5分かかっていない。旧友に再会したような柔らかい空気になっている。
 中学校2年生の定番教材「走れメロス」の学習である。
 今日の学習はメロスが体力を使い果たし、半ば諦めるところから、刑場に到着する場面までである。
 最初に範読、抑揚と歯切れの良さ、けして大きな声ではないが聞きやすい。
 リズムがある。テンポが良い。聞き入ってしまう。
「今の速さで一斉に読みなさい。全員で読みなさい」
 そして範読。
 次は焦点化して短い段落になる。
 そして文になる。
 更に読ませる。
「もう一度」「もう一度」「念のためにもう一度」繰り返す、繰り返す。
 この音読がすごい。すごいとしか言いようがない。ここまで読ませるんやと思う。
 そして焦点化された文を板書され、
「この部分はどのような様子を説明しているのか、三行から五行で書きなさい」
 机間指導に入られる。
 参観者に呼びかける。
「先生方も赤ペンを持ってノートを見ていきなさい」
 この机間指導こそが「相澤メソッド」の真骨頂である。
 赤ペンでマークされ、手に持っている座席表の余白に何事かメモされる。その生徒にしか聞こえない言葉かけをする。
 ペア席になっている。お互いにあいさつをさせる。最後にはお礼を言わせる。
 隣の人の考えを披露し合う。
 自分のノートに書かせる。そしてその下にその人の名前を付記させる。
 何のために話し合うのか。話し合いは「考え合い」である。
 先ほどの座席表を見ながら生徒の言葉や考えをつないでいく。
 まるで織物を織るように子どもたちの発表が新たな発見や言葉の意味を広げていく。
 机間指導時に瞬時に子どもの意見を読み取り、意図的に指名を行って、子どもの学び合いをマネジメントする。
 この手法、深い教材研究と授業経験がなければできるものではない。
 子どもに学び合いをさせるには、「学びをつなぐ」ための意図的指名が重要である。
そして、そのためには深い教材研究が必要だ。
 重要な表現は板書される。その字が大きく、美しい。
 あっという間の50分間であった。
 授業を終えた生徒の顔は風呂上がりのように晴れ晴れとしていた。
 知的なまなざしに変わっていた。50分間で賢くなった。
 いわゆる「教室の奇跡」を見せていただいた。
 授業参観を終え、言葉に対する挑み方、生徒の意見の取り上げ方、全体の流れのコーディネートのあり方、数々の貴重な学びがあった。
(大阪府寝屋川市公立中学校長大原武史)
(相澤秀夫:1949年宮城県生まれ、国公立中学校教諭・指導主事、文部科学集教科調査官及び海外子女教育専門官、宮城教育大学教授を経て宮城教育大学名誉教授。専門は国語科教育)

 

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