子どもに話をするときのコツ 大村はま
1 魅力的に話す練習をする
子どもに話す話し方を、もう少し魅力的にじょうずに話す練習をやってほしい。
録音して自分の話を聞くといいんですよ。
録音して、自分で聞いてみれば、悪いところがよくわかります。力がないのがすぐわかります。自分でびしびしと鍛えます。
私は退職するまでこっそりと練習していた。
話しをすることは特に難しいものですから、短い話しでも、教材の話でも、子どもに聞かせる話は事前の練習が必要です。
子どもに二分とか三分、話をするのはむずかしいから練習しました。そういうとみんな呆れたような顔をしますけどね。
先生方は「そんな時間はかけられない。忙しくて」とおっしゃるけれど、忙しくてもそれが本職ならしかたないでしょう。
録音したものを少しでも聞いてみれば、なおすべきところがわかる。
自分ほどきびしい先生はいないと思うくらい自分で自分を批評しても大丈夫。
ほかの人に聞くからめんどうくさくなる。
聞いてみて、あっと思うことを直してみたり、ほかのことばに言いかえてみたり。
ここはこう言い方もあったとか。そうやってことばを増やすことを考える。
やろうと思っても時間がないなんて言わず、それをやらなくては。本職だから。
2 豊かな話を多く持っている
教師の運命を決するのは豊かな話を多く持っていることではないでしょうか。
先生のそばへ行くと、お小言とか、ためになる話とか、そういうのは聞けるかもしれませんが、何か心のそうっとあたたまるような話はあまり聞けないというような状態が多いのではないでしょうか。
いわゆる「ためになる話」というと、だいだい子どもの嫌いな話が多いですね。そうじゃない豊かな話を子どもに何気なく話していく。
そういうことをもう少し考えないと・・・。学級が崩壊するとか言われていますけれども、そういう場がないからではないでしょうか。
幸せな家庭にいるのと同じようなふんわりした暖かなものが、子どもには必要だと思うんです。
でも、そんな話をたくさん胸に持っていない教師がいるということに、私は最近、気がつきました。
どのような話ですか、と改まって聞かれると困るけれども、子どもが何気なく気楽に聞き流しながら、何かを受け取っていくというような、つまり話の力ですね。
話にはそういう、何がためになるかならないか、上手か下手か、そんなことに関係のない、話し言葉の作る雰囲気というものがあるんです。
30人なり40人なりの子どもを並べて「これからお話をしますから、よく聞いているんですよ」なんていうのは、教師として本当につまらないことです。
「よく聞いてください」と言わなければ聞けないような話しかできないんでしょうか。
教師の話し言葉は、じかに意志を伝えていくものです。
ですから、これを豊かに持っているか持っていないか、持つことを志したか志さないか、それが教師の運命を決すると私は思います。
私はそういうふうに思って、たくさんのお話を胸に持っている先生を尊敬しています。
子どもの数だけいつでも胸に話があったら、どんなにいいかなと思います。
3 教師が「子どもが興味を持つように」と願う方向に向けていく
子どものなかに教師が身をおくことが、教える技術の一つだと思います。子どもの中には入って、子どものことばで話すわけです。
そういう言葉が、どんなに子どもの心を柔らかにし、開いてくるか、わからないと思うのです。子どもの興味のうえに立って、子どもの関心の深い点で、本気で子どもの生活のなかで考えさせます。
それは、教師がただ子どもの興味と関心に従っていくことではないと思います。それは教育にならない。
教師は「この方向に子どもが興味を持つように」と願うところに、静かにゆっくりと向けていく、工夫と努力をしなければならない。興味や関心を育てることは、先生の仕事なのです。
話し合いが堂々巡りのとき、一つの転機を画すように、ぱっと目が覚めて、抜けだしていい話しができるように、曲がり角を作る人でなければならない。先生自身が目の覚めるような発言をして、みんなを感動させることです。
4 子どもの腰を見る
子どもが教師の話を聞いているかどうかは、目をみるのもいいけれど腰を見なさい、と芦田恵之助先生から教えられました。
腰がピンと立っていないときはあなたの話を聞いていない。お義理にこっちを向いているだけ、心は眠っているのだと、よく聞かされました。
5 話の長さは3分がよい
話しはできるだけ短くしたほうがよいと思われます。
いい話しでも長すぎるといい話しではなくなります。
話は5分以上話すべきでないと思います。
3分がいいのですけれども、それ以上は涙をのんでとにかく、いったんやめるべきだと思います。
一年間教えておりますので、話す機会はいくらでもあります。ですから、惜しくてもやめないと、何の感動を与えないものになってしまいます。
6 子どもへの話は「題材」、「話しだし」「組み立て」「結び」にかかっている
(1)「題材」
話の材料というのは、ほんとうに一生懸命に捜しています。
先生の体験談など生きた話しがいちばん効果的です。
話しの内容は、自分の生活のなかから拾った話しが一番です。
自分の生活のなかで自分でとらえて、自分で感激していて、みんなに話したい話が一番生きていると思います。
そのような話しをすると、話しやすい雰囲気、ふんわかとした、あたたかい空気ができるのです。
先生自身の生活の幅が狭くて、話したいことなんかないということは、子どもの話しを聞けない、引き出せないと考えてもよいと思います。
読書の幅を広くして読んで心に残った話しとか、いろいろの話題で自分の胸にいつも感動のネタがいっぱいあるようにしていかないといけません。
私自身が、心から話したいと思わない話は、どうもだめです。新しい発見がない話、受け売りだけの話は、だれもあまり興味が乗りません。
教師の話し方は、一度でわかるような話をするということが、教えるときの教材準備のいちばん大事なところだと思います。
(2)「組み立て」
言葉をいかにやさしくしても、「組み立て」の悪い話というのは、子どもにはわかりません。
ですから「話し出しのくふう」と、「組み立て」「おしまい」、そういうことは気をつけて、案を立てて練習して話をします。
「話しだし」が同じ形をくり返していますと、マンネリになってきますから、だめなのですね。
「組み立て」はよくよく考えてから。それをガラッとひっくり返したほうが大体はいいようです。
「結び」はほとんどないにするのがコツのようです。パッとやめる。ていねいに結びますと、大体だめになるようです。
7 本心が心から声になって出る
西尾実先生に、二人で対話するというのが大事で、本心がすらすらと出てこなければならないんだと教えてくださった。
だいたい日本の先生は問答のことを対話だと思っている。
本心が声になって出る習慣というか力というのを持たないと、話しことばというのは成立しないとおっしゃっていたんです。
8 話しのテンポ
テンポはマンガのテンポがいいです。
ていねいでなくて、ちょっとおそまつなぐらいのテンポです。
有名なマンガ家の場面の移し方にテンポを学べると思うのです。
9 上手に話ができる教師は、相手の心をよく受け取れる教師
上手に話ができる人は、相手の心をよく受け取れる人だけです。
相手の心を受け取れない人がしている話は、子どもの心にはしみ込んでいかない。
とにかく、子どもの心をとらえる以外に上手に話をすることはできない。
子どもの心を本当にとらえているということが、教師にとって大切なことです。
それがつかめていない間柄では、どういう工夫をしても話はうまくいかないと思います。
(大村はま:1906-2005年 長野県で高等女学校、東京都公立中学校で73歳まで教え、新聞・雑誌の記事を元にした授業や生徒の実力と課題に応じた「単元学習法」を確立した。ペスタロッチー賞、日本教育連合会賞を受賞。退職後も「大村はま国語教室の会」を結成し、日本の国語科教育の向上に勤めた)
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