学級崩壊はどのようにして起きるか、その実態と解決に役立つものとは 大塚美和子
大塚美和子は学級崩壊を経験した小学校教師5人を調査し分析した結果をつぎのように述べています。
学級崩壊は、普通の困難なクラスを経験するよりも数倍、精神的・肉体的なしんどさがある。
クラスの崩れはあっという間に生じる。よほどでない限り、誰にでも起こる現象である。
多くの教師は明日はわが身と思うほど、学級崩壊は身近な問題となっている。
1 クラスが荒れていくプロセス
学級崩壊が生じるときには、クラスの子どもがお互いに心が開けない、グループ間の足の引っ張り合いがあるといった希薄な人間関係と担任に対する不信感が前提として存在している。
そして学級崩壊の引き金になるのは、いじめなどの問題が生じたときである。
親の離婚・家庭崩壊・厳しい躾・過酷な受験などといった家庭の問題を抱えた、安らぎや行き場のない気持ちを持った子どもが、他の子どもたちにストレスの矛先を向け、問題行動が広がり、やがて学級崩壊へと進んでいく。
担任が制止しようとするときに、子どもと担任との間の気持ちのズレやボタンのかけちがいが学級崩壊のきっかけになる。
子どもたちの反発が重なり、やがて担任の力では抑えることができなくなり、問題が多発し、どんどんクラスが崩れ、学級崩壊になる。
2 担任が荒れに対処していくプロセス
クラスに問題が生じたとき、担任がクラスの規律を守ろうと子どもたちを指導するときがきっかけになり、学級が崩壊へと向かう。
安らぎや行き場のない気持ちを持った子どもは、担任に反抗しながらも受け止めてほしいという気持ちがある。
反発と甘えの気持ちを担任にぶっつけてくる。
手こずらせている子どもほど、本当は、気持ちを受けとめてくれる手ごたえのある担任を求めているのである。
しかし、「子どもはこうでなくてはいけない」、「子どもを枠のなかにはめないといけない」といった「ねばならない」という教師特有の思いが強くでてしまうと、担任の指導に子どもはますます反発する。
担任は、クラスを立て直すために問題を起こす子どもを受容する努力を試みるが、その際に重要なポイントになるのが、同僚の教師のサポートである。
同僚の教師のサポートは、学級崩壊を乗り越えていけるかどうかを左右する。
やがて、担任のエネルギーが枯渇し弱っていくと、子どもたちを受容したりコントロールすることに限界を感じるようになってしまう。
3 学級崩壊と向き合うときに受けるダメージ
学級崩壊を経験した多くの教師がどん底の体験し自信を喪失する。
教師失格どころか人間失格とまで思ってしまう。
身体の異常やうつ状態など心身の崩壊へと追い込まれる。
そして、学級崩壊の記憶が頭から離れずトラウマとなる。
4 価値観の変化
学級崩壊の経験は、一人の教師として、人間として、自分の生き方、教育観をも見つめなおす、自分と向き合う機会となる。
子どもの行為には思いがあり、そこの裏にある思いをつかむこと。
逆に、子どもは、これだけわけのわからない人間にもなれるということなど、子ども観の変容が生じる。
5 担任を支えるシステムが必要
学級崩壊を担任個人の力量の問題だけにするのではなく、担任を支える協働の働きを行うシステムが必要である。
学級の荒れは多くの担任が直面している問題である。担任を精神的にも心理的にも、実際的にも支えるようにやっていかないと、学級崩壊はなくならないだろう。
学級崩壊の解決に役立つものは
1 スクールソーシャルワーカーの支援を得る。
校内の教師だけでは煮詰まってしまうことがある。スクールソーシャルワーカーなど外部の人に入ってもらうことで、新しい視点で状況を打開することができる。
クラスの人間関係マップの作成、Q-U調査などをスクールソーシャルワーカーなどの協力を得て実施して分析する。
2 学校が組織的に取り組む。
クラスの壁をなくして学年教師全体でかかわるようにする。
担任、学年教師、管理職が一致団結して組織的に取り組む。
3 保護者に協力をお願いする。
学校(担任)と保護者の信頼関係は最も重要である。
保護者に理解を得るように努めながら協力をお願いする。例えば、
子どもは本来、ほめてほしいと思っているものだ。
子どもの良いところを親に書いてもらって、クラスに掲示する。
学校行事の準備を親にも手伝ってもらう。
親に学級を自由参観してもらって、良かったことを書いてもらう。
教室に花を飾るなど美化に自主的に協力してくれる親をさがす。
4 保護者会を開催して親の理解と協力を得るようにする。
保護者会を開催して親の理解と協力を得るために、スクールソーシャルワーカーに客観的な立場で参加してもらい、学校と保護者がボタンのかけちがえが生じないように仲介してもらう。例えば、つぎのような話をしてもらう。
(1) 親は問題点ばかり目を向けないで、学級が落ち着かないなかで学年の教師が遅くまで対応を協議し努力していることに注目してほしいこと。
(2) 学校の対応だけでなく、子どもたちの人間関係や、家庭で重たい生活をしている子どもが学級崩壊の背景となっていることを客観的な情報として話してもらう。
子どもにとって家庭で居心地のよい場所である必要性を考えてもらう。
5 小さな変化にも目を向ける。
問題点だけでなく、小さな変化にも目を向けていくと、見落としていた変化に気がつき、新たな問題解決の発見につながることがある。
6 子どもに協力をしてもらう。
クラスの問題解決に役立ちそうな子どもをさがして協力してもらう。
7 学生などのボランティアの協力を得る
教室に入ってもらうと、子どもたちは学生ボランティアと遊べることを楽しみにすることがある。
(大塚美和子:大阪府教育委員会スクールスーパーバイザー、神戸学院大学総合リハビリテーション学部准教授)
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