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道理に則って行動すれば価値のある一生を送ることができる    渋沢栄一

 私は裸一貫から今日に至った。東京に出てからは埼玉県の実家から補助なしで自分の努力でやってきた。
 私は実業家だが、大金持ちになることは悪いと考えている。
 財産という無価値なことに向かって一生を葬ってしまうより、実業家として立とうとするならば自分の知識を活用し、主義に忠実に働いて一生を過ごせば、そのほうがはるかに価値のある生涯である。
「金はたくさん持つな」「仕事は楽しくやれ」という主義だ。

 成功、不成功は人間行為の基準ではなく、忘れてはならないものは行為の善悪である。
 私は行為が道理(物事の正しいすじみち。人として行うべき正しい道)に外れないものにするべく努力してきた。

 人がこの世に生まれて来た以上、自分のためだけではなく、何か世のためになるべきことをやる義務があると私は信じる。
 人は生まれるとともに天の使命をうけているのである。

 仕事をやり遂げる基本は、小事ほどおろそかにしないこと。
「ライオンはウサギを追うにも全力を用いる」との諺のように、小事を軽視せず、心を集中して臨めば、間違いは起こらない。
 私は、どんなことでも軽率にしてはならないと戒めている。

 人は知識を磨き、徳行を修め人道(人として守り行うべき道)を大切にして努力すれば、真の幸福はかならず身辺に集まるだろう。
 武士道の真髄は、
「正義」:人の道にかなっていて正しいこと。
「廉直」:心が清らかで私欲がなく正直なこと。
「義侠」:正義を重んじ、強い者をくじき、弱い者を助けること。
「礼譲」:礼儀正しく、へりくだった態度をとること。
 などを合わせたものである。
 実業者にもまた武士道が必要なのだ。
 不正を行ってまで私利私欲を満たそうとしたり、権勢にこびへつらって栄達を図ろうとしたりするのは、生き方の基準を無視したもので長続きはしない。

 真の成功とは、道理に欠けず、正義に外れず、国・社会を利益するとともに自己も富貴に至るものでなくてはならない。
 現代の人はただ成功とか失敗とかを眼中に置いて、それよりももっと大切な天地間の道理を見ていない。
「天道」:天然自然の道理。
 はいつも正義に味方するものである。

 運命をとらえるのは難しい。
 とにかく、人は誠実に努力して運命を待つのがよい。
 もしそれで失敗したら、自分の知力が及ばないためとあきらめ、また成功したら知恵が活用されたとして、成功失敗にかかわらず天命として受け入れるといい。
 このようにして、敗けてもあくまで努力するならば、いつかはまた好運命に出会うときがかならず来る。

 人生の行路はさまざまであって、同じように論ずることはできない。
 まず自ら誠実に努力するとよい。
 公平な天はかならずその人に幸いして、運命を開拓するようしむけてくれるだろう。

 人は何よりもまず道理を明らかにしなければならない。
 道理は終始はっきりしているから、道理に従って事をなす者はかならず栄え、道理に逆らって事を図る者はかならず滅びる。

 一時の成功とか失敗は、長い人生においては泡沫のようなものである。
 そのようなうわついた考えは一掃し、社会に役立つ実質ある生活をするべきだ。

 成功失敗の外側に立ち、道理に則って行動するならば、はるかに価値のある一生を送ることができる。
 いわんや、成功などは、人間としての務めを全うした後に生じる「酒のかす」のようなものだから、気にかけるに及ばないではないか。

(
渋沢栄一:1840年-1931年、幕臣、官僚、実業家。一橋家に仕え、欧州各地を視察、大蔵省官僚を経て、実業に専念し第一国立銀行や東京証券取引所などといった多種多様な企業の設立(500社以上)・経営に関わり、日本資本主義の父といわれる。社会・教育・文化事業にも力を注いだ)

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