中堅教師が飛躍するにはどのようなことが考えられるか 森脇建夫
中堅教師が飛躍するにはどのようなことが考えられるか森脇建夫はつぎのように述べています。
中堅教師とは、教師になって十年を過ぎた時期である。
中堅教師は、確立した教師としての「教育観」と「授業スタイル」の問い直しを求められる時期なのである。
教師の教育観が具体的に技術や方法となって姿を現したのが授業スタイルである。
指導力不足教員と認定された教師の約八割が40~50歳代である。
中堅教師の危機は教育実践の硬直化(化石化)と一般にとらえられている。
たとえ力量のある教師でも教育実践の不確実性によって危機に陥る危険性がある。
その危機を乗り越える契機について、学校や研究サークルなどの教師のコミュニティの重要性が指摘されている。
例として、三重県のある公立中学校を考えてみる。
この中学校では佐藤学が提唱した「学びの共同体」を研究テーマとして授業改革を行ってきた。
佐藤は「学校を子ども・教師・親たちが学び合う場所とする」授業改革を核とした学校改革を推進している。
元岳陽中学校長に来てもらったり、「学びの共同体」の研究会に教師を派遣したりして、ペア学習やグループ学習(男女4人)、コの字型机配置の学習を授業の中に取り入れ、各教師が年に二回は授業を公開してきた。
しかし、個々の教師にとっては、「学びの共同体」との出会いは単純ではない。
A教師(数学)は、
「一斉授業では中ぐらいの生徒に焦点を当てると、上・下の子にとっては満足できない。どうしていいかわからなかった」
そこで、自分で授業にコの字とグループ学習を取り入れると、生徒たちに受けがいいことがアンケートで明らかになった。
それを契機に、授業展開は課題をグループ中心で解決することが主となり、生徒どうしを「つなぐ」役割に徹するようになった。
B教師(国語)は、一斉授業に問題を感じていなかった。しかし、
「コの字とかグループにすると、ちょっとわからないことを、グループで聞きあう場面が出てきました。子どもどうしの授業中の関係がよくなったなあと思いました」
C教師(英語)は、自ら英語研究者の講演にたびたび出かけ研修している。
C教師は英語を基本的にはパターンプラクティスと考えている。
授業はリズミカル進み次々と場面を転換していく。
C教師は、「学びの共同体」には批判的である。
しっとりと聴き合うことやグループ学習とはそぐわないと考えている。
彼の教育観が揺らぐ経験をしたとき、「学びの共同体」との再会があるかもしれない。
中堅教師にとって学校という場は、自らの「教育観」の問い直しから、新たな飛躍への契機を与える可能性を持っている。
そのために重要なことは研究コミュニティとして学校が存在することである。
それには、生徒の成長や発達をうながすために集団的な探究や協働的な活動が学校でおこなわれなければならない。
教師たちが授業実践について本音を語ることができ、納得できるまで時間的な余裕をもつことである。
授業実践の改革は教育観を変革し自らを再構築することなのである。
教育観の変革に大きな力を持っているのが生徒の変容である。
もうひとつは、教師の疑問や問題を「ほんものを理解している人」に投げかけられるような学校にしておくことである。
(森脇建夫:1956年生まれ、三重大学教育学部教授。専門は教育方法学・授業論)
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