カテゴリー「学校経営と組織」の記事

今の学校に求められていることは何か    石井卓之

 保護者対応など厳しい状況におかれている学校で、今一番大事なのは、学校として一つの方針でまとまることだと私は思っています。
 うちの学校はこういう方針でやっていくよというものを出していかないと、保護者に理解されません。
 うちの学校はこういう方針でやります。
 ですから保護者や地域の方にはここをぜひとも協力してください。
 という形で発信をしていく必要性が出てきたと感じています。
 子どもたちに規範意識を身につけさせるには、教師がルールブックにならなければいけない。
 教師が示す態度、言葉、行動が基になるようにしなければいけない。
 環境というのも非常に大きいと思います。
 私が指導主事をしているとき、大変な中学校がありました。
 そこの校長が行ったのは、学校のごみをなくす。朝会ったら必ずあいさつする。
 この二つで間違いなく一年で学校が変わりました。
 教師がこの二つをやり遂げ、子どもたちを変えるぞ、とアピールしたこと。
 これが保護者や地域に伝わったと思います。
 教師がていねいな言葉を使うことが大事だと思います。
 叱るときは語気を強くしても言葉はていねいに、というのが今のスタイルになっています。
「子ども自ら」というのもキーワードだと思います。
 決まりを最低限にして、その代わり学校の決まりは絶対に守らせる。
 なぜ、この決まりを守らなければいけないかを説明し、教える。
 今、キレる子どもたちは増えています。
 教師たちはその子を別の部屋に置いて、冷静になるまで待ちます。
 落ち着いたら、なぜそれがいけなかったかということを話さないと、子どもたちの指導は進みません。
 私の小学校では六年生に職場体験をしています。
 あの商店の人に、この間お世話になったからあいさつしようかなとか、叱られたら「ごめんなさい」を言おうかなとか、そういう温かい地域の目をつくりたいということで職場体験に出しています。
(
石井卓之:東京都公立小学校教師、指導主事、公立小学校校長を経て帝京大学准教授)



| | コメント (0) | トラックバック (0)

親と教師が子どもの鏡となる舞台を学校につくろう   滝澤雅彦

 大人は子どもの鏡であると考えています。
 子どもがモデルとすべき大人、これから生きていって「こうなるべきモデル」となる大人は、親と教師だと言ってよいと思います。
 他の大人だっているだろうと思うでしょう。
 でも、今の社会の関わり方を見ると、子どもにとって生きた人間として目の前に立っているのは、親と教師です。
 しかし、子どもと親がどれだけ向き合っているかというと、必ずしもきちんと向き合っていないという実態があります。
 そのことからも、学校は親の役割まで果たさなければいけない。
「親と教師が子どもの鏡となる舞台を学校に」というのが私の考えです。
 学校を地域の大人が集うところにして、英語検定などの勉強会で教師も親も学び続ける人として子どもにみせるのです。
 私の学校の多くの親は20種類の勉強会のサポータに登録しています。
 そのうちの一つが「英検サポーター」で、英語が得意な親が英語検定のことを手伝ってくれている。
 親も学校で自分の子と同世代の子を見ることになる。
 そうやって地域の大人のコミュニティの学びの中心として公立中学校が存在するようにする。
 それを見て、子どもたちが「親や教師たちって、楽しそうだな」と思ってくれる。
 私は子どもたちに
「将来、肩書の人生とプライベートな人生の二つを持とうよ」
「肩書の人生を持つためには勉強という頑張りも必要だけど、プライベートな人生を生きるための趣味や仲間を大事にしようよ」
「そうやって生きていきなさい」
「私は君たちより年上でバンドをやってきたけれども、中学生のころより今の人生のほうがずっと楽しいよ」
 と、言い切れる大人として、私は子どもの前に立っているつもりです。
 子どもは大人を見て育つと言いますが、教師や親、地域の人が子どもにとってモデルにならなければいけないと思います。
「生きていることは楽しいよ」とか「大人になることは素晴らしいことなんだよ」とか、そういうことを子どもに自信を持って言いきれる生き方を、子どもに示すことが大切であると私は思っています。
(
滝澤雅彦:ミュージシャンの道から31歳で教師になり、東京都公立中学校校長、文部科学省中央教育審議会専門委員、日本教育会事務局長を経て日本大学教授。「地域の子どもは地域で育てる」ことの大切さを掲げ、保護者・地域との協働を積極的に推進し、地域運営学校(コミュニティ・スクール)として学校経営した。おとなのバンド大賞グランブリ)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

校長からみた授業崩壊の原因と対応策

 授業崩壊の主な原因は教師の授業力の不足にあると思います。つぎのようなことが考えられます。
(1)
一方的な教え込みで、子どもの学習意欲や興味・関心を無視している。
 教え込み授業は子どもを飽きさせ、私語を誘発する。
(2)
子どもをまとめる力、授業規律、学び合わせる指導技術が不足している。
 いけないことはいけないと毅然とした指導ができていない。遊びと学習のけじめがつかなくなっている。
(3)
授業展開・きめ細かい指導・指導と評価と支援の一体化が不十分である。
 あいまいな授業で、わからない・学習意欲のない子どもがいる。
 話し方があいまいで、長く、繰り返しがあり、子どもにそっぽを向かれている。
(4)
教材の研究や準備・発問や板書・ノートの点検などが不十分である。
(5)
校長や先輩教師の指導助言に耳を貸さず、向上心に乏しい。
(6)
学校としての授業改善の取り組みが不十分で学習形態や指導体制が整備されていない。
 授業崩壊が起きないように予防するには
(1)
研修をする。教師一人ひとりの理解を整理する意味で研修内容を報告させる。
(2)
授業観察を通して管理職やベテラン教師が指導助言する。
 授業力を向上させるため「よいところや進歩したところ」見つけ、ほめて自尊心をくすぐり、意欲づけをして「もっと授業がうまくなるための注文」をつけて自ら研鑽するようにする。
(3)
課題のある教師に示範授業を参観させる。
(4)
課題のある教師に対しては手厚く、ぬくもりのある対応が必要である。
 疑問や悩み事、わからないことの相談に応じる雰囲気づくりが大切である。
 授業崩壊が起きた場合の対応は
(1)
指導によって回復する見込みがあるときは、校長や教頭、ベテラン教師が課題を指摘し、指導する。
 授業の計画と展開、学習評価など基本的なことを必要に応じて指導する。
 授業そのものを点検して具体的に改善し、授業規律について指導する。
 体験的活動、問題解決学習、発問や板書、学び合い、学習のまとめを工夫させるようにする。
(2)
一部支援をすれば回復する段階では、教頭や空き時間の教師が、TT体制でかかわり、授業規律や学習活動の進め方などの回復を図る。
(3)
軽減や補助をつければなんとかなる場合は、校務や授業の一部を軽減し、他の教師に肩代わりさせ、授業の立て直しをする。並行して研修させる。
(4)
交代させる段階では、一時的に交代させ、授業規律や学び方について子どもに再指導するとともに、遅れを取り戻す。
(5)
校長・教頭・学年のすること
 管理職として、授業崩壊がどの段階にあるか見極め、必要な対策を迅速にとる。
 シナリオをつくり、学校を挙げて回復に取り組むようにする。
 当該の教師は成果がでない毎日に疲労困憊している。
 孤立させないよう、学年として可能なかぎり支援することが重要である。
(
小島 宏:1942年東京生まれ、東京の国公立小学校教師、指導主事、小学校長を経て多摩教育調査研究所長)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

秋田県が全国学力トップクラスである要因は「探求型授業」と「共同研究システム」にある、どのようなものか

 秋田県は2007年以来、全国学力調査で全国トップクラスの成績を残してきた。
 その要因として「子どもたちの授業姿勢のよさ」「家庭学習が充実」「学校・家庭・地域の連携」などがある。
 なかでも重要なのが「探求型授業」と「共同研究システム」である。
1 探求型授業
 探求型授業は、子どもたちの、話し合い、意見交換を重視した授業である。
 例えば、次のような授業スタイルである。
(
)導入(学習課題の設定)
 教師と子どもたちで学習課題を決める。
(
)展開
1.
自力思考
 子どもたち一人ひとりが思考を展開する。
 自力思考がむずかしい子どもには教師が援助を行う。
2.
グループで対話
 すべての子どもが考えを持てた段階で、4人程度のグループで、考えを出し合いながら対話をしていく。
3.
グループの発表
 ある程度グループでの対話が煮詰まったら、各グループの状況を学級全体に発表する。
4.
学級全体で学び合う
 各グループの発表を、教師と子どもで整理し、共通点、相違点、論争点を明確にする。
 そのうえで、学級全体で学び合う。再度グループの検討に戻す場合もある。
 グループの対話や学級全体の学び合いの過程で、教師は必要に応じて
 ・助言をし、発問をする。
 ・「ゆさぶり発問」をする。
 ・重要な点を取り出して、再度全体の課題として返す。 
(
)授業の終末
 授業の終末で、構造的な板書を振り返りつつ、それまでの探求を振り返る。
 そのうえで、子どもたちは自分の学びを振り返り、文章にし、発表し合う。
 そういった探求によって、より高次の試行錯誤、判断・批判、推理・検証、発見・創造が展開される。
2 共同研究システム
 探求型授業は、深く豊かな教材研究、具体的な目標・ねらい・切れ味のある学習課題や指導言、グルーピングなど、通常の授業以上に高度な指導を求められる。
 そのため、教師一人ひとりの準備が必要となる。
 しかし、一人の努力だけでは限界がある。教師同士が共同して探求型授業をつくり出していく必要がある。
 秋田県では優れた共同での授業研究システムがある。
 そのシステムのなかで、若手教師も質の高い探求型授業を展開する力をつけていく。
 共同研究システムは、校内研究会、小中連携研究会等で研究授業を行う場合、
「事前研究」→「研究授業」→「ワークショップ型検討会」→「事後研究」
が基本となる。
 はじめは学年、教科で研究チームをつくる場合が多い。少しずつ学年や教科を越えた合同研究チームをつくっていくと効果的である。
 教科の専門性は重要である。しかし、専門外だからこそコメントできるというよさもある。
(
)事前研究
 研究会前までの事前研究が重要である。これが授業研究の成否を決める。
 事前研究の弱い授業研究では限られた成果しか得られない。秋田県ではていねいに行う。
 そのために研究チームをつくり、次のような項目について、ていねいで厳しい検討を行う。
1.
教材選択
 単元の系統性を意識しながら、教科書等から選ぶ
2.
教材研究
 深く豊かな教材研究が探求型を実質化する。
3.
目標・ねらいの決定
 この具体性が授業設計を緻密にする。
4.
指導計画の作成
 単元全体の指導過程と到達点・各授業の到達点。
5.
本時案の作成
 はじめは本時の大きな流れから始め、次の細案に進む。
6.
本時案を具体化した細案の作成
 学習課題、指導言、板書を含む
7.
細案に基づくプレ研究授業
 研究チームで授業を行う。教師が子ども役になり実際の流れで授業をしてみて検討し合う。
(
)研究授業
 教師全員が参加する。授業を撮影し映像記録をとる。
(
)研究授業後のワークショップ型授業検討会
 もちろん教師全員が参加する。教科や学年が違う教師が授業検討にかかわることが鍵になる。そのために「ワークショップ型」検討会が有効である。
 まず、教師全員が付箋紙に授業についてのコメントを記入する。
 例えば、授業で評価できる点について水色の付箋紙、課題・改善すべき点はピンクの付箋紙を使う。その2種類の付箋を持ってグループごとに集まる。
 グループ編成は、学年や教科、研究メンバーは分散させる。
 各グループには司会役のリーダーを置く。授業の優れた点と課題・改善点を鋭く抽出する役割を担う。
 模造紙に付箋を内容別に分類しながら貼り付けていく。それらをマジックインキ等で囲み、グループで検討を深めていく。
 全体会で各グループが発表する。
 多くのグループから出された課題・改善点が見えてくる。とくに重要な点については、再度グループで検討する時間を取ることが効果的である。かなり多様な代案が出てくる。
(
)事後研究
 授業を撮影した映像記録を使って、授業研究会の少し後に事後研究をすると、授業の成果と課題・改善点が具体的により鮮やかに見えてくる。
 研究チームで映像を再生しながらリフレクションを行う。
 授業のポイントとなる部分で再生をストップし、検討会で指摘された点を再度確認しつつ、新たな優れた点と課題・改善点を発見していく。
 以上のような共同研究によって若手教師を含め多くの教師が高い授業力を獲得していく。
 主体的、対話的で深い学びを有効に授業に生かせるかどうかは、共同研究を実質化できるかどうかにかかっている。
(
阿部 昇:1954年生まれ。秋田大学教授、附属小学校校長も勤める。専門は国語科教育学。全国大学国語教育学会理事。日本NIE学会理事。秋田県内の小中学校を数多く訪れ、全国学力テストの好成績について分析。私学中高校での教師経験もある)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

校長のあり方が学校を変える

 野口克海先生の印象を一言でいうと「スクルウォーズからそのまま飛び出してきた先生」というのがぴったりでしょう。
 叩き上げの教育論は実が詰まった具体的な話が多く、講演会での講話に涙が出るほど感動する。
 熱血先生なので学校の荒くれどもとのエピソードが耐えません。
 中学校に赴任早々に、職員室の机でふんぞり返っていた生徒に灰皿で殴られ、血まみれになって取っ組み合いをした話。
 勉強を一切しなかった落ちこぼれが「俺やっぱり高校行きたい」という告白から、毎夜泊まり込みでの特別個人指導をした話など、下手な落語家よりよっぽど面白い。実体験だというのだからさらにすごい。
 全国各地から講演に呼ばれ、本当に教育熱心先生です。
 野口先生の実体験からの講演内容には必ずと言っていいほどの共通項があります。
 それが「絶対に生徒を裏切らない。どんな状況でも子どもを信じ抜く」という姿勢でした。
 野口先生には言葉では言えない「覚悟」の強さを感じます。それはその信念があるからでしょう。
 その信念があったからこそ、決断力もまた大きい力がありました。
 野口克海先生が中学校教師のときに仕えた三人の校長はタイプが全然違っていました。
 望ましい校長像というのは、それぞれの持ち味でいいのだと思うと野口先生はいいます。
 三人ともそれぞれ何か一つほれさせるものを持っていた。
 一人は「ハート」、二人目は「冷静な判断力と知恵」、三人目は「力」にほれました。
 校長は自分の持ち味のなかで、教職員に、なるほどと思わせるものを持っているということが、大事なのだと野口は思っています。
 この三人に共通していることは、自分のいる学校をよくしたいという情熱を持っていたことです。
 野口先生は、校長先生たちを前にして次のような話をされたことがあります。
 赴任したらまず校長室に入らずに、主事室や給食室に挨拶に行き、その後は不登校の生徒の家を家庭訪問して、
「今度赴任した校長です。きみが登校したときに、このおっちゃん、誰やと思わないように挨拶に来た」と、言いなさいとのことです。
 野口先生は、心がけが違うというか、本当に子どもたちのことを一番に考えている人なんだなあと思います。
 校長の哲学として「静」と「動」があると野口先生は次のように言います。
「静」というのは「動かざること山のごとし」です。
 野口先生は、全日本中学校長会会長の話を聞いて、なるほどだなと思いました。
「うちの学校はゴミ拾いで学校を立て直した。やんちゃな子も、近所の方からありがとうと言われ、ほめられたことのない子が地域でほめられる」、
 だから「学校の特色は何ですか」と問われたら、「ゴミ拾いです。それで学校を立て直しました」と答えています。
 いろんなことをしなくても、うちの学校はこれでいくという学校長の信念。それはすばらしいことだと思います。
 私はこういう学校をつくりたい、私はこういう子どもを育てたいという動かざること山のごとしという校長の信念です。
 もう一つは「動」でありますが危機管理の問題です。
 野口先生が教育委員会に勤務していると、学校の様々な事故や事件が起こったときの初期対応のまずさ、危機管理の不徹底で、こじれて教育委員会に問題があがってくるときがあります。
 そのときは、手のほどこしようがないほど、保護者の不満やら苦情が渦巻いているという状態で、教育委員会のところに来ます。
 じっと事件や事故の報告を見ていたら、ああ、これが起こった最初の日に、校長先生が足を運んでいてくれたら、全て解決していたのになあと思います。
 初期対応のまずさという危機管理の問題です。
 学校経営が非常に複雑な今の時代で、様々な保護者がおられ、どれだけ日頃から危機管理がなされているかどうかということが問われています。
 十分に学校の危機管理の体制は整えておくべきだと考えます。
 ある校長先生にお聞きしましたら、私は必ず保健室の保健日誌は、一日一回必ず報告させ、今日は何という名前の子がケガをしたか、目を通して印を押すことにしているということです。
 学校がきちっとしているということも、大事だろうと思います。
 そういうことも含めた危機管理の体制を整えることが、今日、非常に重要になり必要になってきています。
 野口先生の好きな言葉は、「骨太、信念、協調、細心大胆」です。日ごろ仕事上で野口が思っていたことは、
(1)ドンとこい、ということです
 どんなことがあっても、うろたえるなということです。
(2)部下の面倒はちゃんとみるということ
 きちっと面倒を見て、安心して働いてもらうこと。
(3)自分を開くということです
 自分の思いや願いは絶えず職員に全部、話をします。トップに立つ者がどっちを向いて走っているのかを、部下の職員が知らなかったら、みんな困ってしまうからです。
(4)人間としてのつきあいも大切にします
 自分の弱さやプライベートなことも職員の前で裸になるというふうにしている。
(5)人を信頼する
 人を信頼しきって任せていくということが非常に大切です。任せてどうするのか考えさせます。責任は私が取ります。とことん信頼します。
(6)五、三、二
「五つ教えて、三つほめ、二つ叱って人を育てよ」と言われます。
 これは、いろんな意味があって、叱るよりもほめる方を多くしなさいよという意味もありますが、同時に最低二つは叱れよということです。
 先輩教師が若い教師を叱らなくなったと言われています。
 私はできるだけ、明るく、ネアカで仕事をするように心がけ、みんなの前で明るく大声を出して怒りまくります。
(7)不安と孤独
 長のつく者は不安で孤独です。人からどう思われているか、非常に気になる。
 確かに気にはなりますが、お互い気の弱い人間ですから、割り切るようにしています。
 割り切って、好かれなくてもいいと思うようにしています。
 まず、優先順位は、職務をきちっとやり切ることが、本来の仕事ですから、好かれようが嫌われようが、仕方がないと割り切るようにしています。
(野口克海:1942- 2016年大阪市生まれ、大阪府公立中学校教師、大阪府教育委員会課長、堺市教育長、大阪府教育委員会理事、文部省教育課程審議会委員、園田学園女子大学教授、大阪教育大学監事、子ども教育広場代表)

 

| | コメント (0)

指導者にとって自分を高めるために大切なことは何か

 指導者として仕事が好きであるということが一番大切だと思う。
 指導者は決して楽なことはない。文句をいう人もいれば、反対する人もいる。その中で仕事をしていくのだから、ずいぶんと気の疲れることである。
 まして、いろいろな困難が次つぎと生じ、それに的確に対処していくことは大変なことである。
 だから、それを大変だな、苦労だなと思う人は、指導者にはなれない。
 そういう、他人からみれば大変な苦労でも、本人は楽しんでやっているのだから、いくらやっても疲れることがない、いいかえれば、そのことが好きであることが必要なのである。
 この「好き」ということは、何をやるにしても一番大切だと思う。
 指導者は自分の利害とか感情というものをすて去って、何が正しいかを考え、なすべきことをなしていくところに、力強い信念なり勇気が湧き起こってくるといえよう。
 指導者として、人を動かすには、根本に正しい理念、方針をもたなくてはならない。そういうものがなくて、人を動かすことはむずかしい。
 けれども、正しい考え、主張であれば、人は何でも受け入れ共感してくれるかというと必ずしもそうではない。
 それを強引に相手に押しつけようとすれば、反発を招くこともある。説き方、訴え方が大切で、説得力が必要になってくる。
 根底に何が正しいかという信念を持ち、時や場所を考え、相手を考え、情理を尽くした配慮があって、はじめて主張や訴えが説得力を持ってくるのだと思う。
 人間は、疑いの気持ちを持って人に接すれば、そのように人は反応し、信頼の気持ちを持って接すれば、人はうれしいと思う。
 指導者はまず、強い信頼感を持って人に接するということがきわめて大事だと思う。
 たとえ裏切られても本望だというぐらいの気持ちがあれば、案外に人は信頼にそむかないものである。
 何か事をなしていく場合に、信用というのはきわめて大事である。「あの人なら大丈夫だ」といった信用があれば、容易に事が運んでいくだろう。
 自分が信用しない人には、誰もついていかない。信用している人には、ついていこうとする。
 指導者は私情をすて、きびしさとやさしさが必要である。
 すぐれた働きや成果があればほめ、あやまちがあれば叱ることが適切に行われてはじめて、集団の規律が保たれ、人々も励むようになる。
 やさしさばかりでは、人々は甘やかされて成長もしない。かといってきびしい一方では、うわべだけ従うというようになって、自主性をもってやるという姿が生まれてこない。
 だから、ほめ、叱るということはぜひとも行われなくてはならないし、適切、公平になされなくてはならない。
 軽すぎては効果がうすく、重すぎても逆効果ということになり、まことむずかしいものである。
 きびしさはなるべく少なく10~20%ぐらいにして、きびしさがみんなによく浸透していることが望ましい。人情の機微に通じてこそできるのだと思う。
 そのさい、大事なのは私情をはさまないということだろう。私情が入っては納得させることはできない。
 適切にできれば、それだけで指導者たり得るといってもいいくらいである。
 指導者は、たえず自問自答していくことが大切である。
 指導者はあやまちのないように、毎日自分の行いについて、自らに問い、自ら答えるということをくり返していかなければならない。
 自分一人ではわからない場合は、他の人にたずねてみる。
「自分はこう考えているが、どうだろうか」と。得た答を自分自身の考えに加味して検討していくということを重ねていけば、あやまちを少なくやっていけるのではないかと思う。
 人にはそれぞれにちがった持ち味がある。
 一人として全く同じということはない。
 他の人の通りにやったらうまくいくかというと、そうではない。むしろ失敗する場合が多いと思う。
 人のやり方をそのまま真似るというのではなく、それにヒントを得て自分の持ち味に合わせて生かすことが大事なのである。
 すぐれた指導者は、組織の中で一番謙虚で、感謝の心がつよいように思われる。
 私がお会いした、すぐれた成果をあげておられる指導者に共通していることは、どの人もまことに謙虚で、きわめて感謝の念にあつい人である。
 人につねにそうした態度で接しているので、だれもが好感を持つから、多くの人々の知恵があつまってくる。
 それが会社を発展させる最大の力になっているのだと思う。
 指導者にとってその大切さが改めて痛感された。
(松下幸之助:1894-1989年、パナソニック(旧名:松下電器産業)創業者。経営の神様と呼ばれた日本を代表する経営者)

| | コメント (0)

学力が上がり、仲間とつながっている中学校は、どのような実践をすれば実現するか

 兵庫県の都市部にある公立U中学校は校区に同和地区を持ち、荒れを繰り返していたが、敏腕校長が赴任してきて、学校を大胆に立て直しつつあった。
 私はそのU中学校を調査するため1年間にわたって頻繁に訪れ、つぶさに見ることができた。
 つぎのような教職員のセリフは今でも私の胸に焼きついている。
校長
「うち先生方には、ほんまに感謝しています。ケンカするときもあるけど、腹の底ではわかりあっている。学校を思う赤い血が流れていることがよくわかる。私はしあわせもんや」
中堅教師A
「何かで生徒に勝たないと、指導なんてできない。情熱で勝つ、愛情で勝つ、腕力で勝つ、ウデで勝つ、何でもいい、勝たなイカン」
中堅教師B
「勝負の分かれ目は『やめとけ』と注意したときに、やめるのか、無視するのか」
「どろどろしたところに手をつっこんでいかんとダメ。やっぱりどこまで関わっていけるかやね」
「そら、しんどいでっせ。そのかわり、ぐぐっと手ごたえあったときはたまらんね」
 中学校は小学校よりむずかしいというのが私の印象である。荒れを見せはじめたら、お手上げである。
 思春期を迎える中学生たちは「自我」をもちはじめ、大人たちを批判的に見るようになってくる。心は不安定になりやすく、地道に勉強に取り組むことや、毎日コツコツ努力を続けることに、疑問を抱きがちになる。
 中学校の新入生たちに導入されるのは「中学校の規律」である。「授業規律」や「生活規律」という言葉がU中学校では日常的に使われる。
 小学校では家庭的なあたたかな関係のなかで子どもは生活することができるが、実社会がより近くなる中学校では、それだけでは足りない。
 U中学校のある教師は「家族的なつながりをどっかで切るのが中学校だと思う」と語ってくれたが、中学校では「きびしさ」や「ドライさ」といった社会の論理を生徒たちに経験させることが必要になってくるのである。
 U中学校では、手間ひまをかけて生徒との信頼関係を築くことで「指導」が通る状況をつくっている。
 生徒との信頼関係を築くことが今も昔もかわらぬ生徒指導の鉄則だと思われる。
 生徒たちがよく職員室に来る。質問や相談に来るたけでなく、ただしゃべりに来たり、休み時間に来たりということも多い。
「同和地区の子を真ん中にすえた学級づくり」の伝統を持ち、教師と生徒との関係はかなり親密なものになっている。
 U中学校では徹底した基礎学力保障の仕組みが整えられている。具体的には、
(1)「家庭学習の手引き」で、家庭と学校が協働して家庭学習の取り組みを進める。
(2)「習得学習ノート」を活用し「授業に結びついた家庭学習」を定着させることによって、自学自習の育成を図る。
(3)「学習を振り返って」により、学習に対する意欲・関心を引き出す自己評価とアドバイスを全教科で実施する。
(4)学力診断テストと生活実態アンケートから生徒一人ひとりの課題を把握し、指導方法の効果測定と工夫改善へつなげる。
(5)中学校区における小中連携から、指導方法の改善と、学びの継続性を図る取り組みを推進する。
(6)国数英で少人数授業、放課後の補充学習、個に応じた指導等
 U中学校の学力向上の取り組みは、きわめて体系的・組織的に展開されており、とりわけ、家庭訪問・補充学習・その背後にある個別学習を軸とする。
 低学力層の底上げ策は徹底し、成功している。
 こうした成果を生み出す秘訣は、教師集団の結束力・チームワークの高さにあると思われる。
生徒指導担当教師
「伝統的に組織で動いています。『すまん。来てくれ』と言ったら10人くらいどーんと動きます」
「個人の教師の力量で解決するんじゃなくて『私の足らん部分はあなたが補うてくれ』と」
「教師集団が個性を生かしながらやっていこうとするシステムが学校の中にありますね」
「組織として対応する。それを忘れたらあかんと思います」
校長
「先生方も個性があり、関心も力量も違ってます」
「今までの中学校には、スーパーマン的な教師がいたり、毎年同じ取り組みの繰り返しといった消極的な学校運営になっていたと思います」
「今求められているのは、新しいことにチャレンジしながら、教育課題に総合的にアプローチするような学校システムをつくることやと思います」
「すべての生徒を意識した方針か、教師集団として取り組める方針か、恒常的に取り組めるシステムをつくっているか、を常に点検しながら、新しいビジョンが求められているんです」
「生徒や教師や地域とともに新しい学校をつくっていこうという意欲が、子どもや教師をエンパワーすると思うんです」
 教師たちは忙しく立ち働いているが、多くのやりがいを感じ、達成感を得ることができているようである。
 そのようなことは、中学生たちとの日々の関わりのなかから出てきているに違いない。
 U中学校では「集団づくり」「仲間づくり」が徹底的に大切にされている。
 学級の中に「居場所」があってこそ生徒の目は輝くのであり、仲間との切磋琢磨のなかでこそ、学力や社会性が大きく伸びていくからである。
 U中学校には、ありのままの姿を受け入れてくれる仲間・友だちがいる。
 そのような「きずな」は、教師たちの信念とチームワークが創り出す「仲間とつながる」ことを徹底的に大事にするU中学校の空間が、子どもたちにそのような気持ちを起こさせるのである。
(志水宏吉:1959年兵庫県生まれ、大阪大学人間科学研究科教授。専門は教育社会学・学校臨床学)

 

| | コメント (0)

リーダーはピンチになっても、常に前向きで明るくなくてはつとまらない、どうすればよいか

 現在の学校現場は、課題が山積しています。
 しかし、リーダー(管理職)があきらめて暗くなってしまえば、その組織は本当にダメになってしまいます。常に前向きで明るくなくてはつとまりません。
 自分が勤務している学校を好きになることが、学校をよい方向に導き、子どもや教職員を伸ばすための最大の方法です。
 学校が好きということは、子どもや教職員のことを好きということです。
 好きになれば、子どもや教職員の弱点や不足を克服させるための仕組みづくりや指導にも、愛情と熱意が込もります。
 たとえ、子どもや教職員が失敗しても「成長の糧」「もっといい方法があるはず」と、前向きに考えることができます。
 リーダー(管理職)が学校や自分を好きでいてくれるとわかれば、子どもも教職員も期待に応えようと頑張るようにもなります。
 学校が好きというリーダー(管理職)が明るく前向きな姿勢の学校をつくるのです。
 リーダー(管理職)は、教職員の指導法や授業、子どもに対する言葉づかいなどが気になるものです。
 責任が自分にかかってくるというプレッシャーから管理的になる人もいるかもしれません。
 しかし、ことあるごとに伝えると、正論で、その人のためだと思っても「細かいことで口うるさい」「監視されているようだ」と思われてしまいます。
 ここぞというときは、厳しく指導しなくてはならない場合もありますが、ある程度のことは、おおらかに見てあげるくらいで丁度です。
 たとえば、少々気が利かないのはおおらかな証拠。整理整頓が行き届かないのは、子どもの指導に熱心で忙しいからと、プラスの方向で教職員を評価するように努力しましょう。
 物事を前向きにとらえる人は、ピンチになっても、決して悪い方向に考えません。
 最悪の事態を想定しながらも、冷静に次々と的確な対応をしていきます。
 その対応の仕方によって、たとえば、クレームつけてきた保護者が学校を信頼するきっかけになったというような事が起こります。
 学校のリーダー(管理職)は「ピンチをチャンスに変える力」が必要です。
 組織のリーダーが暗く沈んでしまっては、解決できるものも、できなくなってしまいます。
 少々のピンチがやってきても、その状況を楽しむ。教職員の団結力が強まる機会になると思う。自分自身の経験と力量アップの糧になると考える。
 それくらい、前向きに構えることをめざしましょう。
(中嶋郁雄:1965年鳥取県生まれ、奈良県公立小学校校長。子どもを伸ばすためには、叱り方が大切と「叱り方&学校法律」研究会を立ち上げる。教育関係者主宰の講演会や専門誌での発表が主な活動だったが、最近では、一般向けのセミナーでの講演や、新聞や経済誌にも意見を求められるようになる)

| | コメント (0)

若手教師がぐんぐん育つ秋田県と福井県は、どのようにしているのか

 どの県でも、優秀な校長の学校では、教師が育っている。
 特に、秋田県と福井県は、若手教師を育てる校長・学校が多い。校長のリーダーシップが高く、目的意識が一致して授業研究に取り組んでいる。
 秋田県と福井県は、学校経営がすぐれていること、教師間のコミュニケーションが活性化し、目的意識が共有され、若手教師が育っている。
 秋田教育は、つぎのような3大要素がある
(1)
授業の開始時における「めあて」の明示
(2)
授業中の協議時間の確保
(3)
授業の終了時における「まとめ」と「振り返り」
 全国学力・学習状況調査では
(1)
授業の冒頭で目標(めあて・ねらい)を示す活動を計画的に取り入れましたか
(2)
学級やグループで話し合う活動を授業などで行いましたか
(3)
授業の最後に、学習したことを振り返る活動を計画的に取り入れましたか
などの項目が学力と有意な相関を示していて、しかも「よく行った」と回答する学校の割合が秋田県がトップクラスとなっている。
 それに対して、福井教育はわかりにくい。「福井らしさを探る会」の探求で明らかになった福井教育の強みは、教え方よりも校内体制にある。
(1)
単元ごとに教えるべきことがらが教科会や学年会で共有されているため、教師みんなが同じ教え方で子どもに接する。
(2)
授業の進度に合わせて宿題が出される。年間計画の元に出される宿題もある。
(3)
宿題のチェック体制が緻密だ
 毎日のチェックと宿題を忘れた子どものフォローが教師たちのチーム体制のなかで実施されている。
(4)
学年会や教科会を機能させるための校長の配慮が深い
(5)
市町の教育長は校長たちの学級担任のような存在である
 校長の資質を引き上げるために、教育長は校長一人ひとりのことをよく理解し、足繁く学校に通っている。 
 秋田県も福井県も教師集団の結びつきが強い。秋田県は校内研修を通じて、福井県は教科会や学年会を通じた結びつきが強い。
 秋田県は授業研究や学力調査を学校全体のPDCAサイクルに組込んでいる。
 年度当初に研究テーマを策定するが、それを具体化するのに年度当初に実施される全国学力調査を活用している。
 調査実施後は、すぐに自校採点し、学校の課題を明らかにして研究構想を具体化する。
 研究構想に従い各教師が研究授業を準備するが、学校全体の研究テーマを深める観点で授業の準備、公開、事後検討のサイクルを流していく。
 教師たちは研究授業の指導案検討と事後協議を通じて学んだものを日々の授業に反映させている。
 福井県の授業研究も秋田県と同様に流れているが、それに加えて学年会や教科会の結びつきも強い。
 学年会や教科会のなかで、教師たちは年間計画の策定、進度の調整だけでなく、指導方法の情報交換も行っている。
 このようにして若手教師は鍛えられ、育っていく。
 秋田県総合教育センターの初任者研修の資料を見ると、板書や授業の進め方に関するマニュアル的なものはなく
「なぜ、ねらいを設定する必要があるのか」「探求型授業とはどのようなものか」などの本質的な内容の解説がある。
 板書はどうやって鍛えているのかと尋ねると「学校で指導されているからセンターでは不要」とのことだった。
(
千々布敏弥:文部省、私立大学教員を経て、国立教育政策研究所総括研究官、調査研究協力者会議など多数の文部科学省関係委員を歴任
)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

多くの教師が求めている校長とは、どのような校長か

 人事考課の導入に伴って、職員室の雰囲気が悪くなっている学校が少なくないと聞きます。
 そんな学校では、管理職と教師の関係が、管理的関係、評価的関係になってしまっているのではないでしょうか。
 その雰囲気をつくっている要因の一つは、管理職の伝え下手にあります。
 管理職として評価するのですから、厳しいことを言わざるをえないときもあるでしょう。例えば、
「あなたの自己評価は高すぎます」「あなたの問題は〇〇ですね」
などと、教師の意欲を低下させる伝え方をしていないでしょうか。
 教師になる人の多くはまじめな優等生です。そのため傷つきやすく、叱られるとやる気を失ってしまう人が多いのです。教師はほめられて育つ人が多いのです。
 教師の評価は、本人の自己評価をもとに、コーチングの技法を生かして、その教師の持ち味を生かして肯定的にかかわっていくことが大切です。例えば、
「あなたは自分のよさをよくわかっておられますね。その資質は私たちの学校に、とても必要なものだと思います」
「私は、その資質をもっと○○に生かしていただきたいと思います」
「その具体的な方法として何か考えられることはありますか」
 まず、教師の持ち味となる点に着目して、ほめ「この学校はあなたを必要としている」
というメッセージを伝えます。
 そのうえで、その資質を学校をよくするためにどのように生かしてほしいか、具体的な方法を本人と一緒に考えていくのです。
 その教師の持ち味を生かし、そこを伸ばして、足りない点を補えるのが、できる管理職、伸びていく学校です。
 リーダーシップとは、モチベーションを高めるような指導性です。
「私はこういう学校にしたいんです。そのためにみなさんの力がどうしても必要です。ぜひ力を貸してください」と言える校長先生。
 個々の教師に対して、「あなたに期待していますよ」「あなたが必要なんですよ」と言える校長。
 校長は「私のことを必要としてくれている」という感情を一人ひとりの教師が抱くことができれば、やる気もわいてくるというものです。
 いっぽうで、「何かあったらいつでも相談してくださいね」と気楽に相談にのってくれるカウンセリングマインドも必要です。「弱音を吐ける職員室」をつくっていく最大の役割をはたすのが校長です。
 ぜひ、教師が弱音を吐けるようなあたたかい雰囲気を、校長自らリードしてつくっていただきたいと思います。
 以前、ある小学校の教師が「私にとって校長先生は、学校における親のような存在です」と私に言ったことがあります。
 小学校教師の管理職に対する依存と期待は、並はずれて大きなものがあります。逆にそれが得られなかったときの教師のダメージは非常に大きくなります。
 保護者から攻撃や学級崩壊で教師が傷つき、私のもとに相談に来られた先生方が嘆きます。「校長先生は私を守ってくれませんでした」と。
 ある教師が不登校になりかけた子どもの父親に刃物を突きつけられ「どうしてくれるんだ」とすごまれたそうです。
 それを校長に相談しにいったら、「あなたも大変だね」と受け流されたそうです。
「次に来たら一緒に会いましょう」と言ってもらえなかった・・・・・・。これがショックで大きなダメージを受けられました。
 いっぽう、いろいろな組織の役員をしている大物校長で、一週間に一度くらいしか学校にこない評判の悪い校長がいました。
 ところが、ある父親が学校に乗り込んで来たときのこと。強面で、「娘が学校に行きたくないと言っているぞ。担任を出せ!」とすごんでいます。
 ここで、たまたま、その時に学校にいた校長が登場して、
「ちょっと待ってください。この担任の先生は、私が信頼をおいてお願いしている先生なんです」
「文句があるなら私がお聞きしましょう。さあ先生、あとは私に任せてください」
 このことで、校長の支持率が急上昇したそうです。
 とても荒れていた小学校に校内研修に伺ったときのことです。確かに惨憺たる状況です。
 授業中に物は飛んでくる。子どもが教師の足を引っかけ「くそじじい」「くそばばあ」と言う。黒板には毎日「死ね」の文字。
 しかし、校内研修は和気あいあいとしています。
「あらら、また『死ね』って書かれたの、一週間連続じゃない?」
「足ひっかけられて、あざできちゃうなんて、なんだかK-1みたいね」
 いちばん荒れているクラスの担任は
「職員室がこんなにいい雰囲気だから、なんとか続けることができているんです」
と。
 この学校の校長が実に脱力しきったいい雰囲気を出しています。
「先生方、ほんとうによくやってくれていますよね。私にできることですか・・・。研究指定校をお断りすることくらいでしょうか(笑い)
 管理職がリードして、お互いに弱音を吐いていいんだよ、支え合っていこうという雰囲気をつくること、これはとても重要なことなんです。
 講演会などで担任の先生方にお聞きすると、およそ6割が「うちの校長は頼りない」「リーダーシップが足りない」と感じているようです。
 また、理想の校長像をお聞きすると、最も多い2つが、
「こちらの話もよく聞いてくれて、フットワークもよく、頼りがいのある校長」
「いざというときに守ってくれる、親分肌の校長」
です。
 先生方は、きまったように、
いざというとき守ってくれる、親分肌の校長がいなくなったと嘆いています。
 保護者の攻撃や学級崩壊で心身ともに疲弊しきったとき、「それでもがんばろう」と教師を続けられる教師と、「もうだめだ、限界だ」と辞められる教師。
 この違いが、管理職の対応一つにかかっていることは少なくないのです。
 多くの担任が求めているのは、「いざというとき」に「必ず守ってくれる」と思える「親分肌の校長」です。
(諸富祥彦:1963年生まれ、明治大学教授。専門は臨床心理学、カウンセリング心理学。悩める教師を支える会代表。現場教師の作戦参謀としてアドバイスを教師に与えている)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

いじめの指導 さまざまな子どもの指導 ものの見方・考え方 カウンセリング 不登校 人間とは(心理・行動・あり方) 人間の生きかた 保育幼稚園 保護者との協力関係をつくる 保護者にどう対応するか 保護者の実態 優れた先生に学ぶ 優れた学級担任とは 優れた授業とは 優れた教科授業例 先生の実態 危機管理 叱る・ほめる・しつける 各国の教育 各国の教育改革 各教科の授業 同僚・管理職との関係 問題行動の指導 国語科の授業 地域 子どもから学ぶ 子どもたちに対する思い 子どもたちの関係づくり 子どもと向き合う 子どもの失敗 子どもの実態 子どもの成長をはかる 子どもの指導の方法 子どもの見かた 子どもの話し方 子育て・家庭教育 学び合う学び 学力 学校の実態 学校組織 学校経営と組織 学校行事 学級づくり 学級の組織と活動 学級の荒れ 学級崩壊 学級通信 学習指導・学力 学習指導案 実践のための資料 家庭 宿題 掃除 授業づくり 授業のさまざまな方法 授業の実態 授業の展開・演出 授業の技術 授業中の生活指導 教師との関係 教師と子どもの関係づくり 教師に必要とされる能力 教師の人間としての生きかた・考えかた 教師の仕事 教師の心の安定 教師の成長・研修 教師の話しかた 教師の身体表現力 教材・指導案 教材研究 教育の技術 教育の方法 教育の理念や思い 教育史(教育の歴史と変化) 教育改革 教育法規 教育行政(国・地方の教育委員会) 新学級づくり 特別支援教育 理科の授業 研究会開催情報 社会環境 社会環境(社会・マスコミ・地域) 社会科の授業 算数・数学科の授業 経営とは 英語科の授業 評価 話の聞きかた