カテゴリー「教師の心の安定」の記事

子どもがいやになり、子どもの言うことを聴くのが苦痛に感じます、どうすればよいのでしょうか

 教師は子どもを相手にする仕事であるため、とてもエネルギーが必要です。
 いろいろな行事や校務分掌の仕事が重なると、さらに大変です。おまけに、保護者との対応などにも精神的なエネルギーをとられてしまいます。
 ですから、教師であるためには、なによりも余裕が必要です。
 教師は自分に余裕(エネルギー)のない時は、子どもたちのペースに合わせられず、授業がうまくいかなくなり、イライラして、ついきつい口調になったり、全体を見通したり、見渡す力が弱くなるために学級がバラバラになったりします。
 余裕のない状態が続くと悪循環におちいってしまい、エネルギーを浪費して消耗しきってしまいます。
 いったんそうなると、以前は子どもたちのことが大好きだったのに、教室に行くことさえ苦痛に感じるようになったりします。
 そのことで、保護者から疑問の声が出てくるようになると、ますます追い込まれたように感じて自分を責めたり、子どもや保護者たちを責める気持ちが生じてきます。
 常に疲れやすく、イライラしやすいわけですが、その根底には憂うつな気分があります。
 自分のことで精一杯になっていて、何事もうわの空で集中できなくなっています。
 もともとイライラしやすいタイプの人にもよくありますが、真面目で不器用な、少し融通性に欠ける性格の人にも生じやすい状態です。
 一人で問題を抱かえこんでしまい、周囲の同僚教師がアドバイスしにくい雰囲気になっていることもあります。
 こうした状態が長く続く場合には、精神的な疲労による「抑うつ状態」が疑われます。
 こういう時は、自分自身へのエネルギー補給が必要です。
 問題解決に努めるために、管理職や同僚教師、家族に相談することは大切です。
 話を聴いてもらうだけでも、疲れた心が癒されることでしょう。
 懸命になればなるほど、悪循環におちいりやすく疲れをためてしまうこともあるので、時には仕事と距離をおくことをお勧めします。
 一人で静かに過ごしたり、学校とは全く関係のない人たちと趣味を楽しむことが有効です。
 いつもと違った新鮮な気持ちになり、ゆとりを取り戻すことができるかもしれません。
 そして、子どもたちの笑顔を見たり、成長に気づくことでエネルギーをもらえることが目標と考えてみましょう。
(
中島一憲:19562007年、1990年より東京都教職員互助会三楽病院勤務し部長、東京医科歯科大学教授を歴任した。精神科医師)

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教師が陥りやすい思考パターンと、ストレスで心身に悪影響を及ぼさないようにする具体的方法とは

 認知が偏り、うつに陥りやすい思考バターンというものがいくつかあります。その一つが
「〇〇すべきだ」
「〇〇すべきでない」
「〇〇でなければならない」
「〇〇であってはならない」
という考え方で「べき思考」と呼ばれています。
 教師は子どもを指導する職業なので、日頃からこうした「べき思考」に馴染んでいます。
 長年教職についていると、ある意味「職業人格」と言えるかもしれません。
「自分は教師だから、お手本にならなければならない」
「自分は教師だから、間違えてはならない」
「自分は教師だから、分からないことがあってはならない」
「自分は教師だから、子どもに弱い姿を見せられない」
 こうした思考にいつも縛られていると、理想通りにいかない場合に、過度に落ち込んだり、自分を責めたりしまいがちです。
「保護者にクレームを言われるなんて、教師として失格だ」
「子どもに聞かれたことに答えられなかった。教師として情けない」
 そんなふうに思ってしまうかもしれません。
 もちろん、多くの教師が職業への使命感や責任感、誇りを持っているからこそ、学校教育が成り立っています。
 一方で、そうした職業的思考が、教師自身を追い込む「もろ刃の剣」となってしまうのは皮肉なことです。
「教師たるもの、いい加減になってはいけない」のはその通りですが、いつも同じ「べき思考」で無理を重ねると、いつかポッキリと心が折れてしまうかもしれません。
 教師として生きるべきとき以外には、理想通りにいかない現実を見つつ「良()い、加減」に考えてもよいのではないでしょうか。
 思考のクセやこびりついた考えを止めるには、まずそのことに気づくこと、次に思考を入れ替えることです。
 生きていくうえで、ストレスはつきものです。問題が起こる場所は、自分の心身です。そこで、心身をケアすることが必要になります。
 陥りがちな勘違いが「ストレスの原因を何とかしなければならない」という発想です。
 例えば「ああいう態度がストレスだ」「こんなこと言われて頭にきた」という場合に、
「あの態度を改めてもらわねば」と考えてしまう人がいます。
 相手の態度が変わらなくても、ストレスマネジメントに取り組むことはできます。
 原因となったストレスがどこにあっても、自分自身をケアすることでしか、ストレスによる反応を緩和することはできないのです。
 ストレスで心身に悪影響を及ぼさないようにする具体的方法は、
1 マインドフルネス
 ストレスがたまるのは、いやなこと、つらいことを頭の中で繰り返し再生してしまうことによります。
 繰り返し再生してしまうのを止めるには
(1)
別の考えに置き換えること
(2)
今起こっていることだけに集中すること
 身体の感覚を感じることから始めてみましょう。呼吸に伴う体の感覚、動くときの筋肉の感覚など、ふだんは気づかない感覚を感じとり、観察することで、ストレスをため込む「負の思考」から離れることができます。
(
具体的な方法は「月曜日がつらい先生へ-不安が消えるストレスマネジメント」真金薫子著 時事通信 2018)参照してください)
2 趣味・スポーツに興じる
 好きなことに没頭すれば、その間、嫌なことやつらいことは忘れることができます。お勧めはスポーツです。手軽にできるものはウォーキングです。
 歌が好きならカラオケもよいでしょう。
 趣味がない人は、何か新しい習い事にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
3 自然・動物と触れ合う
 自然には癒し効果があります。また、動物との触れ合うと、ストレス軽減や自尊感情向上などをもたらす力があります。
 植物の香りにはリラックスやリフレッシュの効果があります。緑茶も効果的です。
4 良質の睡眠を取る
 睡眠は疲労回復やストレス耐性が高まり、心身の健康を保つうえで非常に重要です。
 具体的には、朝必ず日光を浴びる。可能なら30分の昼寝。夕食は就寝の3時間前までに済ませ、ぬるめのお湯にのんびりと浸かる。
5 コラム法
 書く作業を通じて頭の中が整理されると同時に、異なる視点から物事を見直し、感情や考え方を見つめ直せる。
 読み返すうちに、自分の思考の癖に気づくかもしれません。
 例えば、自分がつらい思いをした出来事、その時の気分、考えたこと、別の考え、別の考えを書いた後の感情を書く。書き終えたら読み返す。
(
真金薫子:東京都教職員互助会三楽病院精神科部長、東京都教職員総合健康センター長、東京医科歯科大学臨床教授
)

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新採教師はなぜおいつめられるのか、どうすればよいのでしょうか

 どんな職業でも新人として勤めることは、右も左もわからない、とまどうことばかりである。
 まして教師が初年度から小学校の学級担任になると、他の教師と何ら変わらない仕事を4月から取り組むことになる。初めての人には、ほとんど暗中模索、試行錯誤である。
 何が問題で、どうすればよいのでしょうか。
1 学級の子どもたちとの関係
 中でも一番重要でかつ大変なのが、学級の子どもたちとの関係づくりだ。
 自分が生徒だった時代の学校体験では考えられないような難しい子どもや学級の状況に慣れない教師は、誰でも当初はとまどうのが当たり前になりつつある。
2 保護者との関係
 今の保護者は、学校はサービス機関、教師はサービス労働者、親は消費者という学校観を身につけている。
 学校(教師)にどのような苦情の言い方をしようと、言う自分の側は安全だという思い込みがある。
 また、親が子育てや生活でのストレスで、ついつい言い方に性急さや攻撃性が伴ってしまうこともある。
 保護者からの厳しいクレームは、子どもとの関係に比べると、若い教師にはきついものになっている。
 その攻撃性がエスカレートしたり、不安の声が親の間に広まったりすれば、いっそうきつい。
 教師は自分の中に「教師としての誇り」が保持できなければ難しい仕事である。他者からの何らかの肯定的評価があって確保されるものである。
 保護者から「あなたの力量が足りないからではないか」と指弾されるきつさは「教師としての誇り」を突き崩されるほどのきつさであろう。
 このような保護者との関係の難しさが、多くの新採教師を悩ましており、自己否定感にまで追い込まれる例がみられる。
 そこでは、子どもや保護者とのトラブルへの対応が長時間の労働になることと、自己否定や自責による「教師としての誇り」の喪失とが重なっている。
3 管理職・同僚教師との関係
 管理職の対応のあり方が大きい。
 自殺まで追い込まれるケースでは、校長や副校長などが「あなたが悪いからだ、あなたの責任だ、謝りなさい」と、ここぞとでもいうように責める側に回っているのである。
 管理職も含めた同僚教師の職場での関係が、教員評価制度の浸透もあって、子どもの学級集団がいじめの温床になっているのと同様、学校職場の教師関係が悪質化へ誘う力も強く働いている。
 職場の管理職や同僚が、同じ教師でありながら、新採教師をサポートするとは限らず、むしろ責める側に回って追い詰めて行くケースがある。
「指導」に名を借りたある種の「組織的パワー・ハラスメント」であり、じつに恐ろしい事態である。
4 新採教師の支えは職場の同僚か、学校外の仲間か
 職場の同僚教師が、クレームを言う保護者には、担任を一人にしない教師間の連携を確保することは、大事な知恵だと思う。
 学校外のサークルや組合、大学時代からの友人などが新採教師の支えとなる場合が多い。
 そこで、新採教師などがつまずいた状況を率直に出し合い「苦しいのは自分だけじゃない」と救われたり、自分の苦闘と悩みとを受け止めてもらったりする。
 職場で受けた「管理職や先輩教師からの叱責」が実は不合理なものと気がついて自責感から解放させられたり、他の人の経験に学んだり、対処への適切なアドバイスをもらったりする。
 そういう過程で「子どもに対する見方や対処」についても新たに広がった視野を持ったりする。
 あるいは、クレームを言う保護者について新しい理解も開けたりする。
5 教師をめぐる世論と政策の転換期
 これまで、教師に対する不信・不満がマスコミの基本になり、国民の不信・不満を追い風に「いいかげんな教師たちを、仕事の成果できちんと評価し、鍛え直す」というのが教師政策・改革の指向となってきた。
 しかし、こうした教師への改革は、教師を追い詰めるばかりで、教師の精神疾患を急増させ、過労死や自殺などの悲惨な状況を生んでいる。
 成果主義の教員評価制度の導入が、教師たちを苦しめ、学校職場を悪質化している。
 教師たちが精神的にも健康で、伸び伸びと力量を発揮し、成長することは、学校を子どもの成長を助け、見守る場になる大事な条件である。
 教師に対するマスコミの論調も、政策・改革の方向も
「ここまで苦しみ追い込まれている教師たちの状況を、何とか真っ当なものにしなければ」という指向へと転換する、まさにその時期だと思う。
(
久富善之:1946年生まれ、一橋大学名誉教授。専門は教育社会学、学校文化・教員文化論)


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「私は教師に向いていない、辞めるか」とばかり考えていた新任教師が、どのようにして教師の仕事を続けたいと思うようになったか

 A先生は、新任の小学校女性教師で、地方の小規模校(全学年が単学級)の4年生の担任になりました。
 幼いころから先生になることをめざしていたA先生は、理想に燃えて一人ひとりの子どもの個性を伸ばすことを目標に積極的に関わっていこうとしました。
 しかし、授業中に立ち歩いたり、突然大きな声で話し始めたりする多動傾向の子どもへの指導に手を焼いているうちに、周囲の子どものなかにもそれに同調して騒ぐ子も出てきました。
 多動傾向の子の保護者に協力を求めると「去年はそんなことはなかった。うちの子ばかりを問題視するのはおかしい」と批判された。
 昨年度は厳しい指導をするベテランの男性教師が担任をしていましたが、転勤し、十分な引き継ぎを受けることができなかったようです。
 他の保護者からは「きちんと授業を成立させてほしい」と強く要求されるようになってしまいました。
 A先生は真面目で責任感が強く、自分一人で問題を抱え込みがちなところがある。
 子どもたちにも「こうあるべきだ」と固定的な期待感を抱きがちで、どちらかというと柔軟な対応が苦手なタイプです。
 また、他人に頼まれると嫌とはいえない性格で、後で後悔することもよくあると言います。
 A先生からの次のような相談メールがありました。
「朝は気合い入れて出勤しますが、時間が経つにつれ、だんだん無気力になり、逃げたいという気持ちになってしまいます」
「他の先生に助けてもらっても、私一人になれば元通り。『私は教師に向いていない、辞めるか』と、気づいたらそればっかり考えています。すぐに涙が出てしまいます」
 私は、次のような返信をしました。
「多くの新任教師があたる壁ではないでしょうか。思うように子どもたちが動かないもどかしさや焦りなどから、理想と現実の落差でショックをうけているのでは」
「他の先生が入ると子どもたちが落ち着いているのは、A先生の前だから、自分たちの素顔を出しているとも考えられます」
「子どもたちはA先生に安心感を抱いて、ありのままを出しているとも言えます。子どもの成長には安心感が何よりも必要です」
「子どもの気持ちで学び合おう、一緒に遊ぼうという感じで接したら、少し変化が出るかもしれません」
「難しい子どもばかりでなく、しっかり頑張っている子、楽しそうにしている子にも目を向けてみたらどうでしょうか」
「いいとこ見つけの名人先生をめざしてみたら」
「すごくいい先生になろうとするのではなく、一緒にいて楽しい先生をめざしてみるのも一つの方法です」
「それと、周りの先生も忙しいでしょうが、相談されたり、頼られたりするのは嫌なものではない。信頼できる先輩や管理職にかたひじ張らずに相談してみてください」
「人と話すと、少し気持ちが楽になります。相談することは恥ずかしいことではないし、自分のためというよりも、子どもたちのためと思って相談してみてください」
「うまくいかなくて当たり前。そんな気持ちでやってみたらどうでしょう」
 A先生は「一人で無理にやってもどうにもならない」と開き直ってから、気持ちが少しずつ和らいでいったようです。
 A先生は同じような悩みを抱かえた新任の仲間や職場の先輩と、子どもへの対応について相談し合うようになりました。
 話を通じて自己理解が進み、自分が身にまといがちな固い殻にも気づき、もののとらえ方も少しずつ変わっていきました。
 反抗的な子どもも「心のどこかで変わりたいと願っている」と思えるようになり、以前に比べ、授業に行くのが苦痛でなくなったと言います。
 自信が100%回復したわけではありませんが「教師の仕事を続けたい」と思いはじめるようになっていきました。
(
新井 肇:1951年生まれ、埼玉県公立高校教師を経て、兵庫教育大学教授。カウンセリング心理学を基盤とした生徒指導実践の理論化、教師のストレスとメンタルサポート等を研究)

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課題のある子が気になる、明日の授業は大丈夫だろうかと考えて、夜なかなか眠れません、どうすればよいのでしょうか

 眠れないことが、病気の症状なのか、そうでないのかは、自分で判断することが難しい場合もあります。
 日中、気分の面も身体の面でも特に問題がなければ、病気とはいえません。
 ところが、日中も気分や体調に問題がある場合や、心配事が解決したり、身体的な病気が治癒したのに不眠が続く場合には、心の病気を疑うべきでしょう。
 ただし、実際の学校現場では、次々と心配事が起きるでしょうし、多忙も続いて一息つくことさえ困難かもしれません。
 常にストレス状態が慢性的に続いているわけですから、いつ心の病気になっても、おかしくない状態です。
 不眠症にはさまざまなタイプがあること、長引けば病気のサインであることを知っておくのがよいでしょう。
 次に不眠症の具体的な解決法について述べます。
 眠りやすくする方法
(1)
寝る前に熱すぎない風呂にゆったりつかり、血液の循環を良くして、身体をほどよく温めれば眠りやすくなります。
(2)
午前中に日光浴をする
 午前中に日を浴びると、脳内の睡眠物質の量が調整され、夜眠りやすくなります。
(3)
短時間の仮眠を取る
 短時間、軽く仮眠を取ると、その後、集中して活動できるため、夜、すっきりと眠れるでしょう。
(4)
楽観的な気持ちを持つ
「眠らなければ」と、強く考えれば考えるほど、意識がはっきりして、かえって眠りにくくなるのです。
 基本的に、不眠そのもののために死ぬことはありません。
「2,3日眠らなければ、その後は疲れ果てて眠れる」というような、眠りに対する楽観的な気持ちを持つことが眠るコツといえるでしょう。
 過労だけが原因であれば、いずれ夜も眠れるようになるものです。
(5)
気分転換を図る
 楽しい出来事を思い出すことで、気持ちがリラックスでき、眠りやすくなるということもあります。
 寝酒の量が増えることは好ましくありません。
 夜、眠れないという理由で、お酒を飲む人が少なくありません。
 確かに酔ってくれば寝つきは良くなるのですが、酔いが覚めてくれば脳も覚めて浅い眠りになり、目ざめやすくなります。
 ですから、寝酒の量が増えることは好ましくありません。アルコール依存症になる人もいます。
 睡眠薬は専門医の処方で
 不眠がある程度続き、昼間に眠気が強くなったり、集中力が低下してミスが増えるといった、日常生活や仕事上でも支障が出てきた場合には、治療的な対処が必要です。
 安全で副作用の少ない睡眠を助ける睡眠薬があります。
 睡眠薬に対する悪いイメージもありますが、一時的に合理的に使うのであれば、まず問題はありません。
 日常的に使うぶんには、効かなくなることがないため、中毒を起こすことはほとんどありません。
 ただし、睡眠薬を使うのであれば、専門の医師に相談して、自分の不眠のタイプに合った薬を処方してもらうことが、一番効率的です。
 そのうえで、決められた量をきちんと守るなど、正しい使い方をしてほしいと思います。
(
中島一憲:19562007年、1990年より東京都教職員互助会三楽病院勤務し部長、東京医科歯科大学教授を歴任した。精神科医師)

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教師が「辞めたい」という気持ちに追いつめられるものは何か

 教師の仕事の多忙化による疲労の蓄積に加え、子どもの問題行動の指導や、保護者からの苦情への対応で日常的なストレスにさらされた結果、「うつ状態」などに陥って病気休職となるケースが増加しています。
 実際、私の大学院で、長期派遣の現職教師236名を対象に学校現場での心の危機について、その原因を尋ねたところ、つぎのような結果になりました。(20092011年度)
1.
手に負えない子どもに振り回される   97
2.
職員間の共通理解や協力が得られず孤立 64
3.
保護者との人間関係 51
4.
管理職とのあつれき 43
5.
同僚とのトラブルやいじめ 33
6.
多忙     30
7.
他校への転任 14
8.
新任         10
9.
部活動の子ども・保護者とのあつれき 9
10.
望まない担任や分掌                9
 教師が仕事に対する無力感や無意味感、あるいは自己否定的になり「辞めたい」という思いに陥っていく背景には、何があるのでしょうか。つぎのようなことが考えられます。
 教師のパーソナリティ要因がある
 挫折や危機から抜け出すことを妨げる性格として
(1)
自己の信念や、やり方に固執して、柔軟性にかける
(2)
他者の期待に応えようとする
(3)
仕事が競争的で、目的達成志向が強く、他者に対して批判的、攻撃的になりやすい 
 自分は教師に向いていないのではないかという揺らぎ
(1)
子どもの指導や保護者対応などに対する自信の低下
(2)
教職適性感の低下
 職場の要因
(1)
仕事の多忙感
(2)
管理職との共通理解の不足や意見の対立による葛藤
(3)
同僚教師が協力的でない
 教師に「辞めたい」という気持ちを抱かせるものは、教師個人の性格というよりも、むしろ自分は教師に向いていないのではないかという揺らぎや職場の要因から生じるものが多いように見受けられます。
( 新井 肇:1951年生まれ、埼玉県公立高校教師を経て、兵庫教育大学教授。カウンセリング心理学を基盤とした生徒指導実践の理論化、教師のストレスとメンタルサポート等を研究)


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悩みや憎しみは、どんどん膨らんでいく、どうすれば楽になるのでしょうか?

 悩んでいる自分を認めず「こんなふうに悩んでいてはだめだ」と責めてはいけません。
 悩みは鎮まるどころか、かえって膨らんでいきます。
 悩みや憎しみや不快などのマイナス感情は、それを否定すればするほど、どんどん膨らんでいくのです。
 悩んでいる自分を否定するのではなく「ああ、自分には『教師を続けられないのではないか』という不安や自信のない気持ちがあるんだな」と、まず、認めること。
 そして、それをただただそのまま認め、眺めるような姿勢でいるのです。
 これができるようになり「ダメ教師としての自分」も、自分の一部として認めることができるようになると、そうした否定的な気持ちそのものが小さくなっていきます。
 重要なことは、何が出てきても、ただただそのまま認め、眺めるという姿勢です。
 実際に、悩みと上手につきあえるようになると、それまでのクヨクヨした心の重さが消えていき、生きることがだいぶ楽になっていくはずです。
 私のカウンセリング室に来られる人に「あなたは、どうなりたいですか」と尋ねると、多くの人は「悩みのない人生を送りたい」と言います。
 しかし、悩みがまったくない人など一人もいません。
 カウンセラーである私は、相談にくる人を「悩みがまったくない人」にしようとは思っていません。
 むしろ「悩みと上手につきあう方法を学んでもらう」お手伝いをしています。
 自分の悩みとの関わり方は、つぎのように3つあります。
(1)
感情を押し殺してしまう方法
 自分の悩みを自分から切り離して、自分の外に閉め出し、あたかも悩みなどないようにふるまう方法です。
「私は大丈夫、私は大丈夫・・・・・」と感情を押し込めていると、いずれ症状に出てきます。
(2)
いっぱい、いっぱいになって苦しんでいる状態
 悩みと自分が同一化してしまい、それにとりつかれてしまっている状態です。
「教師として、自分はやっていけないのではないか」という、いやな感じばかりが膨れあがり、やがてその悩みに覆い尽くされてしまう。
(3)
悩みを認めて、距離をとる
 自分の悩みを認め、それと同一化してしまうのではなく、外に追いやることもせずに、それを「認めていき」「距離をとる」方法です。
 悩み、うつ的な気分がある。そんな自分を否定するのではなく、そういう自分も、自分の一部だとそのまま認めていくのです。
「うつ」の人は考えすぎる傾向にあります。考えすぎると心のエネルギーは奪われていってしまいます。
 私は相談に来られた人に「どうやったら、考えすぎずにすむか、その工夫を一緒に考えていきましょうね」と言うことがよくあります。
 そして「悩みを認めて、距離をとる」方法を学んでいただくのです。
「私はダメな教師ではないか」とまじめな人ほど、ひたすら考えます。前向きな人であればあるほど、そこから脱出しようとして、もがき苦しみ続けます。
 しかし、それは不可能なので「やっぱりダメだ」となってしまう。脱出できるような悩みでしたら、うつにはなりません。
 どうしても自信がない。そうしたら、自信のなさやうつ的な気分をそのまま、認めていくしかないのです。
 認めて、しかしそれにどっぷりつからない。「自分の悩み苦しみと、一歩距離をおく」のです。
(諸富祥彦:1963年生まれ、明治大学教授。専門は臨床心理学、カウンセリング心理学。悩める教師を支える会代表。現場教師の作戦参謀としてアドバイスを教師に与えている)

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教師が学級崩壊など危機的状況になっても、乗り越え教師人生をまっとうしていくうえで支えになることとは

 教師の抱かえる悩みが、最初は子どもとの関係、保護者との関係などによって生み出されたものであったとしても、それだけで退職や休職に追い込まれるケースはそう多くはありません。
 同僚や管理職に仕事の悩みを相談できると答えた教師は約14%しかいません。学校現場において教師がいかに孤立しているかがよくわかります。
 同僚や管理職との人間関係ができていない教師が精神的に追い込まれていくのは、精神疾患による休職教師の約半数が、その学校へ転勤して2年以内に休職している、という事実にも示されています。
 こうした現状の中で求められるのは「お互いに、お互いを支え合う職員室」づくり「弱音を吐ける職員室」づくりです。
 私が多くの学校現場に足を運んできて最も強く感じたことのひとつは「管理職によって職場の雰囲気はこれほどまでに大きく影響されるのか」ということです。
 ある学校の教頭は、かつて担任だったとき、クラスが崩壊した経験があります。うつ病を患い、精神神経科のクリニックに通院していました。彼は次のように言います。
「今はこれだけ教師が大変なんだから、うつ病になるのは、まじめに教師をやっている証拠でしょう」
「だから、担任の先生方には、みんな抱え込まずに、支え合っていきましょう、口をすっぱくして言っているんです」
 この教頭先生は、自らつらい経験にしたことで、今、担任が助けを求めやすい雰囲気づくりに努めています。
 また、ある小学校教師はかつて学級崩壊を体験し、うつ病になった折り、休職をしようと相談にいった校長から、こう言われたと言います。
「うつ病になったのは、むしろ真剣に責任感を持って仕事をやっていた証拠だ。うつ病は教師の勲章だよ、きみ」
 校長からこの言葉をもらったのをきっかけに、この教師は回復していきました。
 結局、一度も休職せず、通院治療でうつ病を治すことができ、今では、ある小学校の校長になっています。
 この教師は言います。
「もしあのとき、校長はじめ、同僚の先生方から、厳しいことを言われて突き放されていたら、私はたぶんもう退職していたと思います」
「今、こうやっていることができるのも、校長や同僚に支えてもらったおかげです」
「教師にとって、同僚や管理職による支えほど、教師人生の危機を乗り越えるうえで大きな力になるものはないですね」
 学級崩壊のような危機的状況にあっても、その問題をみんなで共有できる学校では、ともに危機を乗り越えていくことを通して、一人ひとりの教師が成長していくことができるのです。
 教師には「学級経営の失敗をさらすのは恥である」といった意識の人がいます。
 しかし、担任が問題を抱え込むと、保護者との関係の悪化など、二次的な問題が生じる可能性が高くなります。
 このような悪循環を防ぐために必要なのは、早期発見、早期対応である。そのため教師には「じょうずに助けを求める力」が求められます。
 それが、これからの教師に求められる資質であると考えられるのです。
 不運にも現任校でそうした人が見つけられない場合には、一人悩みを抱かえるのではなく、外部の仲間や専門家に助けを求めることです。
 かつての同僚や管理職、初任者研修のときの同期の仲間、大学時代の仲間、教師のサポートグループや研究会で知り合った仲間などの中から、一人でもいいので「何でも言える人」「わかり合える仲間」を見つけていきましょう。
 そんな存在が見つかった教師は、回復を見せていく場合が多いのです。
 このような仲間の存在こそが、教師が幾度かの不調を乗り越えながらも、数十年の教師人生をまっとうしていくうえで、最大の支えとなるのです。
(諸富祥彦:1963年生まれ、明治大学教授,臨床心理学、カウンセリング心理学、現場教師の作戦参謀としてアドバイスを教師に与えている)


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教師が心を痛め休職したりする原因は何か

 教師は真面目で誠実だ。誠実だから教師になったのだ。真面目でない人間には教師は絶対つとまらない。
 心を痛めて、休職する教師が増えている。辞める教師が増えている。
 それを取り上げてくださるマスコミも多い。有り難いことである。
 しかし、マスコミの方々は、われわれ教師の「さが」をよく分かっていらっしゃらないようだ。
 教師が自殺したり、休職者数が増加したりすると、すぐに労働時間などが問題にされる。
 確かに教師の仕事は忙しい。しかし、私は、そんなことは問題でないと思っている。
 教師が心を痛める原因は何か? それは「報われない」からである。
 どんな仕事でも、辛いことはある。忙しくて、睡眠時間も満足に取れないことがあるだろう。
 仕事は、厳しいものである。それは仕方ない。
 それでも、その努力が報われれば、人間はがんばれるのだ。
 どんな忙しかろうが、徹夜が続こうが、報われている限りはがんばれる。
 われわれ教師は真面目なのだ。良心的なのだ。子どもたちの笑顔を見て、やりがいさえ感じられれば「教師になって良かった」と思える。
 どんなに仕事が忙しくても、体がきつくても「がんばって良かったな」と思える。
 それなのに、いまどきの教師は「報われない」、がんばっただけの見返りがない。
 見返りとは、現金ではない。子どもたちの笑顔、保護者の笑顔、つまりは「先生のお陰で」と言われることが少なすぎる。
 いや、逆に一生懸命やった、がんばりが裏目に出ることが実に多いのだ。
 これでは、われわれ教師は「報われない」、がんばれない。
 教師という仕事の本来の喜びは、子どもの成長である。かけ算九九ができるようになったなど、子どもを成長させることができると、ものすごくうれしい。
 そして、自分の成長を実感した時の子どもたちの笑顔を見ると、さらにうれしい。
 これが、教師の「さが」である。そのためなら、どんなに大変でもがんばれる。
 われわれ教師は辛いのは、忙しいからではない。「報われない」から辛いのだ。
 今、教師に必要なのは、教師が報われることである。
(
中村健一:1970年山口県生まれ、山口県岩国市立小学校教師。授業づくりネットワーク、お笑い教師同盟などに所属。笑いとフォローをいかした教育実践は各方面で高い評価を受けている。 また、若手教師を育てることに力を入れ、多くの学生に向けて講演も行っている
)

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運わるく学級崩壊してしまっても自分を責めてはならない。人のせいにしてでも、生きのこれ

 教師は真面目な人が多い。だから、学級崩壊してしまったら、自分を責めてしまう。そんな人ばかりだ。
 そして、心を壊す。体を壊す。辞めてしまう人だっている。自殺してしまう人だっている。
 学級崩壊しても、悪いのは自分(教師)ではない。学級崩壊を起こすような子どもが悪いのだ。保護者が悪いのだ。少しはそうやって、人のせいにしてみよう。そうすれば、少しは心が軽くなるのではないか。
 ある女性教師がいた。かなりの確率で学級崩壊した。すごいのは、彼女の明るさだ。職員室で見ていると、学級崩壊している担任だなんて、とても思えない。
 よくしゃべり、よく笑う。風邪ひとつひかない。学校を休むなんてことはない。毎日元気に働き続けていた。
 なんでこんなに元気で明るいんだろうと、不思議に思っていた。彼女の話を聞いていて、よく分った。
 彼女は、自分が悪いとは全く思っていない。悪いのは全て、子どもであり、保護者であり、世の中なのだ。
 だから、彼女は傷つくこともなく、明るく元気に働き続けられる。すごいことだ。
 私は、彼女に学ぶべきだと思っている。人のせいにすれば、病気にならなくて済むのだ。辞めなくてすむのだ。少しはそうやって、人のせいにしてみよう。
 また、彼女が元気でいられたのは、周りにいた同僚教師の力も大きい。人のせいばかりにする彼女の発言を一切とがめなかった。「うん、うん」とうなずき「そうだよねえ」と共感的に聞いてあげた。
 彼女が元気で居続けられたのは、職員室の力が大きいと思う。
 人間誰しも、相性というのがある。もし私がものすごく相性の悪い子や保護者の担任になってしまったら、私のクラスだって学級崩壊してしまうのだ。
 もちろん、教師の努力で学級崩壊になる確率は下げられると思っている。そう思っていないとやってられない。
 しかし、学級崩壊の確率はゼロではない。学級崩壊してしまう可能性は誰にだってあるのだ。
 運わるく学級崩壊してしまっても、自分を責めてはならない。人のせいにしてでも、生きのこれ。
 教師として1年間生き残りさえすれば、次の年は楽勝に感じられるはずだ。とにかく1年間をしのぎきり、生き残ることが大切なのだ。
 これは、将来、学級崩壊に当たってしまった時の私へのメッセージでもある。
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中村健一:1970年山口県生まれ、山口県岩国市立小学校教師。授業づくりネットワーク、お笑い教師同盟などに所属。笑いとフォローをいかした教育実践は各方面で高い評価を受けている。 また、若手教師を育てることに力を入れ、多くの学生に向けて講演も行っている
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