学びは「他者の声を聴く」ことを出発点としている。学びは対話的なコミュニケーションを基礎としている。その対話的なコミュニケーションを成立させるものは「聴き合う関係」である。
学校ほど対話の重要性が叫ばれている場所はない。いくら協同学習(グループ学習)を導入したとしても、そのコミュニケーションが「話し合う関係」に終始しているならば、そこに学びは成立していない。
子どもたちが学び合う関係は「活発な話し合い」ではなく、ぼそぼそとつぶやきのある「聴き合う関係」を基礎としている。
話し合いが活発になるのは、すでに知っていることを発表しているからであって、自分のわからないことを探究しているからではない。
自分のわからないことを探究するときは、子どもたちはぼそぼそとつぶやいたりする。学びで「聴き合う関係」とは「自分のわからないことを明確にしていく関係」でもある。
一般の学校の授業は、学びの課題のレベルが低すぎる。教科書以上の学び(ジャンプのある学び)が必要である。
学校の授業における「学びの共同体」の実践は、教科書以上の学び(ジャンプのある学び)を重視してきた。
授業で、教科書レベルの「共有の学び」と、教科書以上の「ジャンプのある学び」の二つを協同学習で学ぶのである。
「学びの共同体」の実践の重要ポイントは
1 学びの場づくり
(1)教室の机の配置
聴き合う関係や学び合う関係をつくるために、コの字型の机の配列(小学校1,2年生では密着したコの字型)にする。
(2)教師のテンションをさげた声と選ばれた言葉
(3)教師の息づかいと子どもの息づかいが一つになっていること。
2 授業の課題づくり
学びを中心とする授業づくりにおいては、子どもたちが夢中になって取り組む学びを組織するために、
(1)どの子も一定の理解を形成する、教科書レベルの「共有の学び」の課題
(2)その知識を活用して発展的な探求に挑戦する「ジャンプの学び」の課題
の二つが授業のデザインとして具体化されていなければならならい。
一般のほとんどの授業は課題が一つであり、内容レベルが低すぎる。基礎的な理解と創意的で発展的な学びの両者を可能にする授業の課題づくりが、授業改革の要件となる。
3 ペア学習と協同学習(グループ学習)の導入
小学校の1,2年生ではペア学習、小学校3年生以上(中学校・高校)は男女4人グループによる協同的な学びを「共有の学び」「ジャンプの学び」に導入する。
4 校内研修の改革
すべての教師が最低年に1回は授業を公開し検討し合う同僚性を築くことなしには、授業の改革も学校の改革も実現しない。
また、授業協議会で、子どもたち一人ひとりの学びの事実を中心に話し合い、授業者への助言ではなく教室の事実から学び合う話し合いを実現させなければ、校内に専門家として育ち合う同僚性を形成することはできない。
教師としての成長は、教師相互の援助と学び合いにもある。経験の相互交流と見識の伝承により育ち合う関係を築き上げて、教師は成長していくのである。
5「学びの共同体」の協同的な学び(グループ学習)
協同的な学びは学び合う関係によって成立する。教え合う関係ではない。協同的な学びは、「子どもたち一人ひとりの学び」と「一人ひとりの学びをより高いレベル」に導くためである。
授業で一人残らず学ぶためにはどうすればよいだろうか。最も低いレベルの子どもの問いを授業の中に取り組む。そして、学ぶ内容を高いレベルに設定し、上層の子どもが学ぶようにする。
学びを中心とする授業は、通常の授業よりも高く設定された内容と、最もわからない子どもの問いとの間の大きなギャップを、教師と子どもたちとで協同で埋めていく授業である。この困難な課題を達成するのが小グループによる協同的な学びなのである。
ポイントは、子どもたちの間に聴き合う関係が生まれていることである。聴き合う関係がないと成果が期待できない。
教室に聴き合い学びあう関わりが成立するためには、子どもたち一人ひとりの個性的な学びと多様な読みを尊重することであり、教科書の言葉を大切にして学びの発展性を尊重することである。
それと、グループ活動の中で、わからない子どもが「ねぇ、ここどうするの?」と仲間に問いかける指導の徹底である。
仲間に問いかけることが十分に定着していれば、教師も子どもも安心して高いレベルの学びに挑戦することができる。グループは男女混合の4人のほうが学びが生まれやすい。
協同的な学びは、学びの主体は個人である。リーダーは不要である。一人ひとりの多様な学びのすり合わせであり、どの子も対等な立場で参加する必要がある。
グループ内の一人ひとりの考えや意見の多様性を追求する。決してグループ内の考えや意見の一致や、まとまりを求めてはいけない。班学習のように班を代表して意見を言わせてはならない。
協同的な学びを導入すると、子どもがおしゃべりをしてしまうことを嫌う教師がいる。それらの教師の授業を観察すると、教師がおしゃべりであることがほとんどである。
そうでなければ、教師の言葉が子どもに届いておらず、子どもとは無関係に一方的に授業を進めているケースも多い。
協同的な学びを導入してもおしゃべりしてしまう教室は、もともと授業が学びのない授業になっている場合がほとんどである。そうでない場合は課題がやさしすぎるからである。
協同的な学びの意義は、一人では到達できないレベルに仲間との協同によってできることにある。まずは1時間の授業の中に数分でも協同的な学びを導入することが重要である。
6「学びの共同体」の実践の成果
学びの共同体の学校は、子どもたちが学び育ち合う学校であり、教師たちも教育の専門家として学び育ち合う学校である。
どの子どもも最初から最後まで夢中になって学び、しかも奇跡的と思われる学力の向上を達成してきた。教科書以上の学び(ジャンプのある学び)が、もっとも「質の高い学び」を創造してきたのである。
「学びの共同体」づくりを推進した学校は奇跡と呼べる成果を達成している。
「浜之郷スタイル」(小学校)「岳陽スタイル」(中学校)を導入し、「学びの共同体」づくりを推進した学校では、どんなに荒れた学校でも、約1年後には教師と生徒の間トラブルや生徒間の暴力は皆無に近い状態になり、生徒たちが一人残らず積極的に学びに参加する状態へと変わっている。
そして改革を始めて2年後には、不登校の生徒の数は改革前の3割から1割程度に激減する。成績の低い生徒の学力が大幅に向上し、3年後には成績上位者の学力も向上して市内でトップクラスの学校へと再生する。
(佐藤 学:1951年生まれ 東京大学教授を経て学習院大学教授。学校を訪問(国内外2800校)し、学校現場と共に学び合う学びの改革を進めている)